圧倒的な室内の広さと使い勝手のよさで、今や大人気のジャンルである「スーパーハイト軽ワゴン」。その代表的存在である「ダイハツタント」の4代目が今年7月に登場した。
「新時代のライフパートナー」をキーワードに開発された新型タントの注目ポイントは、ミラクルウォークスルーパッケージ、次世代スマートアシスト、そして「DNGA」による高い基本性能など新技術をふんだんに織り込みつつも、価格帯は先代モデルから完全に据え置かれた点だ。
その裏側には、ダイハツ開発エンジニアたちの涙ぐましい努力があったようだ。元メーカー開発エンジニアの吉川賢一氏が試乗した。
■ダイハツ 新型タント価格
・NA:122万400~179万2800円
・ターボ:156万600~187万3800円
※本稿は2019年8月のものです。試乗日は7月30日
文:吉川 賢一/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年9月10日号
■新型タント 外観 内装のポイントは?
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エクステリアは、従来どおりシンプルで癖のない標準モデルと、チョイ悪風にしたカスタムの2系統。違いはフロントバンパー、フルLEDヘッドランプ、サイドドアアクセント、アルミホイール、リアコンビネーションランプなど。
●ダイハツ タント
新型N-WGNやスペーシアと同様、ベースグレードは「シンプル顔」で、どこか日産の現行型キューブに似たファニーな表情は人気が出そうな予感もする。
対して、タントカスタムは「いつもの顔」感が強く、正直なところ、先代モデルとどこが変わったのか区別しにくく感じた。
●ダイハツ タントカスタム
インテリアは、ワイド&ローなデジタルメーターが特徴的。ドライバー正面からセンター部にかけたメーターレイアウトで、視界移動が少なく運転がしやすい。
ただ、最も中央寄りに設置されたタコメーターに、なぜかデジタルで回転数を表示しているのは、ちょっと意味がわからない。
「ミラクルオープンドア」の圧倒的な利便性には脱帽だ。最大540mmスライド可能となる、世界初の運転席ロングスライドシートを採用。
これにより、運転席に座ったまま横をクルッと向いて、後席の子どもの世話をするといったことも可能。子育て中のママにとっては、最もやりたかったシートアレンジだろう。
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■試乗してわかった新型タントの動力性能 ココがスゴい&ココがダメ
新型タントのようなスーパーハイト軽ワゴンでは、大きく重いボディを走らせる「エンジン性能」と、背の高さからくる「ボディモーションの抑制」が注目ポイントとなる。
この新型タントでもやはり、この2点が気になった。
エンジンはNAエンジン、ガソリンターボの2種類で、ミッションには「世界初」のスプリットギアを組み込んだCVTベルト+ギア駆動の「D-CVT」が採用されている。
新型タントは、先代から約40kg軽量化されたようだが、NAエンジンでは少しの坂道であっても加速フィールを伴わずにエンジンがうなり音を上げるため、モアパワーが欲しくなる。
タントのキャラクター上、速く走る必要はまったくないが、最低でもタントカスタムのガソリンターボエンジン程度のトルク感がなければ、日常シーンでストレスを感じることがあるだろう。
ボディモーションも、スーパーハイト軽ワゴンのイメージどおり、残念ながら気になった。
交差点で早めのハンドル操作をするシーンでは、ボディは遅れを伴ってロール方向に「グラリ」と傾き、お店の駐車場へ入る時などの段差乗り越しのシーンでも「ゆさゆさ」と左右に振られてしまい、安心感が充分あるとは感じられなかった。
とはいえ、新型タントは従来のスーパーハイト軽ワゴンとは違い、ロードノイズが思ったよりも静かで、一般路での乗り心地がいい。このあたりの話を、タントの運動性能エンジニアの方に伺った。
「静粛性の向上は、入力をボディ骨格全体で受け止めるDNGAによるものだと思います。また、新型タントではDNGAのもと、サスペンションのレイアウトを一から見直しました。
具体的には、フロントサスのロールセンター高を修正し、スプリングとスタビライザーのロール剛性配分を適正化して乗り心地を改善、またアンチダイブ(ブレーキ時の前のめり抑制)のためフロントロアリンク後側のブッシュ位置を修正しています。
リアサスはビームの付け根にあるブッシュの傾角を変更し、ステア特性と横剛性を改善してリアグリップを改善しました」とのこと。
なるほど。ブレーキング時の安定性や乗り心地、ロードノイズなどの静粛性はよく抑えられていることとつながった。
また、ボディモーションも、結果的に大きいとはいえ、基本的なサスペンションジオメトリーでポテンシャルアップを狙ったのは、評価できる。
また、「スーパーハイト軽ワゴンであるタントは、ボディモーションが厳しいのは承知しています。ただ、最も厳しいボディシェイプのクルマで対策を打てれば、その後の派生車種の開発が楽になる。そうしたコンセプトで設計をしました」とも話していた。
軽自動車の開発エンジニアたちは、普通車開発と比べ、厳しい制約条件下での設計を強いられるが、ダイハツのエンジニアの方々は、むしろその苦行を楽しんでいるようにも見えた。
「お客様のニーズに応えるクルマづくりを楽しむ」エンジニア集団である、ダイハツのクルマを今後も楽しみにしている。
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■ダイハツ タントX(FF)主要諸元
・全長:3395mm
・全幅:1475mm
・全高:1755mm
・ホイールベース:2460mm
・車重:900kg
・エンジン:直3、660ccDOHC
・総排気量:658cc
・最高出力:52ps/6900rpm
・最大トルク:6.1kgm/3600rpm
・JC08モード燃費:27.2km/L
・WLTCモード燃費:21.2km/L
・価格:146万3400円
■リポート 吉川賢一(自動車ジャーナリスト)
日産自動車で11年間次世代車の操縦安定性や乗り心地の先行開発を担当。スカイラインなどFR高級車の開発にも従事。「エンジニア視点での本音のクルマ評価」がモットー
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