中古車価格の推移は、その道のベテランであっても、大まかな予想だけで完全に読み切ることはできない。しかし、クルマごとに起こる不思議な現象を頭に軽く入れておけば、予想の的中率を上げることは可能だ。今回はメルセデス・ベンツの王道ロードスター、SLクラスを取り上げてみたい。
文:古賀貴司(自動車王国)/写真:メルセデス・ベンツ
■富裕層から支持を集め続ける歴代SLクラス
中学生の頃、初めてメルセデス・ベンツSLクラス(R129型)を目にした瞬間の衝撃は、今も鮮明に記憶に刻まれている。
学校の校舎の2階から見下ろしたその姿は、フロントマスクの傾斜をより際立たせ、旧型モデル(R107型)から飛躍的に進化したスポーティなフォルムに、息を呑んだものだ。
“いつかは購入しよう”と思ってきたR129型だが昨今、ネオクラシックカーとして価値が見出され始めている。
中古車市場を眺めてみると、R129型(200万円台半ば~)は後継車であるR230型(100万円台前半~)よりも高く流通しているものばかりなのだ。R230のほうが格段に性能は良いのに…だ。
■現行モデルと中古車価格が同じR107型
中古車市場は実に面白い。中古車価格の基本は経過年数に比例しながら値落ちしていく。限りなくゼロ円に近くなるまで下落してくれるのかと思いきや、ある程度古くなると底値で安定し、気づけばネオクラシックカーとして評価され徐々に値上がりしていく。
具体的に「何年経てば」というような法則は存在せず、恐らく供給量が減った頃合いを見計らって“売れたらラッキー”とばかりに勇気を振り絞って高値を貼る中古車販売店が出てくるのだろう。
そして、だんだんと周りの中古車販売店もつられて高値を貼り出す、というのが実情ではないかと踏んでいる。そして消費者もネオクラシックカーとしての価値を認めたなら、仕入れも販売価格も高まっていく。
中古車市場は、まるで生き物のように呼吸し、進化していく。これぞまさに、需要と供給が織りなす価格形成の妙だ。
R129型の先代モデルであるR107型に目を向けてみると、走行距離が少なく程度の良い後期型は1000万円オーバーも珍しくない。これは現行型SLの中古車と変わらない中古車相場である。
そういう意味では現在、R230型が底値安定状態で、後継モデル(旧型モデル)であるR231型が順当に値落ち中、ということが分かる。
■コスパならR230型、今後の期待はR129型か
クルマ選びの基準は様々あろうが、純粋に価格的魅力という観点でジャッジすると、100万円前半で狙えるR230型を魅力的考える人が多いのではないだろうか。
一方、R231型に目を向けてみると300万円台から狙えるが、R230型の後期型と中古車相場はほとんど変わらない。そして、R129型の程度が良さげな物件も300万円台というのが現状である。
つまりR129型(1989年デビュー)、R230型(2001年デビュー)、R231型(2012年デビュー)の中古車で価格帯が重なる物件が存在するということ。新車時登録からの経過年数に比例して下落するのが中古車相場であるはずなのに、実に面白い現象が起こっている。
R129型とR107型の間にはまだ大きな価格差が存在する。この隙間を埋めるように、R129型の価値が今後さらに上昇する可能性は十分にある。
ネオクラシックカーとしての本格的な値上がりが始まる前にR129型を手に入れるか、それとも旧型モデルで現代の走行性能を堪能するか…。クラシックの魅力と新しめの技術のはざまで揺れる、クルマ好きにとって甘美な悩みがそこにある。
一気に近代化が図られた5代目のR230型。前期モデルは丸目4灯のヘッドライトを採用していた。
2008年に販売されたR230型の後期モデル。ヘッドライトなどデザインが一新された。
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