ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回は日産 キックス(2020年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2020年11月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■ツボを押さえた欠点のないクルマ
本当に久しぶり。日産の新型車に乗るのはいつ以来だろうか。
なんでも、モデルチェンジを除く日産オールニューの新型車は先代リーフ以来10年ぶりだとか。よくぞここまで日本をほったらかしにしてきたものだ。ゴーンさんはおカネのことで頭がいっぱいで、日本のことを忘れていたのだろう。
新型車はやはりいいものだ。
私が普段、クルマでよく走るコースにはいくつか日産のディーラーがあるのだが、そこに黄色のキックスが置いてあると華やかになる。
それまで軽自動車やミニバンくらいしかなかったから、その違いはテキメン。派手な色が似合うクルマは販売店を明るくしてくれる。
私はジュークが大好きだったから、「これが新型ジュークだったらもっと気分が上がるんだけどな」とも思うが、まぁ日産には日産の事情があるのだろう。かなわぬことを言っていてもしょうがない。まずはキックスが登場してくれたことに感謝しよう。
キックスは乗ってみても、どこにも欠点がないクルマだった。ボディサイズがちょうどいいし、室内の広さも充分。e-POWER独特のワンペダルドライブはラクだし安全性も高そうだ。また、高速道路で半自動運転をこなしてくれるプロパイロットも付いている。
オプションも含めた試乗車の価格は約360万円で、購入総額が400万円近くになるというのはこのクラスではちょっと考えてしまうレベルだが、それでも受注は好調らしい。
要はツボが全部押さえられているということだ。
キックス自体は4年前から海外で売られていたクルマで、それにe-POWERやプロパイロットなどを新しく搭載したと聞くと「新型車じゃないじゃん!」という気がしないでもないのだが、そこは問わないでおこう。
販売店が明るくなっただけでもありがたいということだ。
■「半径5m以内の売り方」では限界がある
ツボをきっちり押さえたキックスはコメンテーター泣かせのクルマでもある。面白い発想が出てこないし、気の利いたコメントも出しにくい。「いいクルマです。以上」で話が終わってしまうのだ。
このままではページが埋まらない。文字と写真を大きくして「キックス最高! 新型コロナに負けるな!」と編集してもらうしかない。このままでは私もお払い箱になってしまいかねないので、クリエイターらしくキックスをお題にいろいろと考えてみた。
気になったのは、キックスに限らず最近のSUVはみんな、こぢんまりとしたプロモーションで終わってないか? ということだ。
家族で楽しめるとか奥さんも運転しやすいとか、そこも大事なのはわかるが、それって半径5m以内の売り方だ。もっと視野を広げたほうがいいのではないか。
今、突然思いついたのだが、キックス24時間レースを開催してみてはどうだろう。
それもドライバーもチーム員も全員素人が望ましい。インターネットでライブ中継して「なんかキックスがやたら走っているぞ」と思ってもらえたらそれで成功。女の子だけのレースでもいいし、大学自動車部対抗レースでもいい。
『24時間テレビ』のマラソンは一流選手ではなく、スポーツの素人である芸能人が走っているから話題になるし、多くの人に観られるのだ。テクニックや速さはどうでもよくて、みんなヒューマンドラマが観たいのである。
キックスがいいクルマであることは実感できるのだが、実はクルマの出来はさほど重要ではなかったりする。
この手の建売住宅っぽいクルマ(←誉めてます)は性能よりも「どう話題を提供するか」が大切で、半径5mの売り方では限界がある。このあたりのことは日産だけでなく、クルマ業界全体が問題意識を持ったほうがいい。
キックスがあまりにもよくて、思いが膨らんでしまった。とても運転しやすい、いいクルマだったと最後にもう一度伝えておく。
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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