スーパースポーツモデルを中心に採用されている「対向ピストン」タイプのブレーキキャリパーは、普及モデルで一般的な「ピンスライド」タイプよりもコントロール性が良好でよく効くのが特長です。そしてそのポテンシャルを引き出すには日頃のメンテナンスが不可欠です。ところが対向ピストンにはピンスライドキャリパーとは異なる「メンテナンスのやりづらさ」があります。その問題のカギを握るのが「ジョイントシール」です。
ダスト清掃や揉み出しにひと苦労することもある対向ピストンキャリパー
ディスクブレーキのメンテナンスの基本であり最も効果があるのが「キャリパーピストンの揉み出し」でしょう。ブレーキパッド摩耗によるパッドダストや、雨天走行時に跳ね上げる雨水混じりの砂利などがキャリパーピストンに付着すると、ダストシールとのフリクションロスが大きくなり、ピストンの動きに影響します。またパッドダストなどが「汚れの首輪」のようにシール部分に堆積すると、シールを傷つけて気密性低下の原因になることもあります。
キャリパーからブレーキパッドを取り外し、ピストン脱落に注意しながらブレーキレバー操作で押し出し、中性洗剤などで汚れを取り除いたらシリコングリスやMR20などのキャリパーピストン組み付けスプレーを塗布して押し戻すことで、ピストンの動きは確実に改善します。
また揉み出し効果はブレーキを掛ける時だけでなく、ブレーキレバーやペダルを離した際のパッド戻りの良さにも現れます。ブレーキレバーを離してもなんとなくパッドが引きずっているように感じるキャリパーで揉み出しを行うことで、引きずりが改善することは珍しくありません。
このように、高性能パッド装着やブレーキホース交換より低コストで効果のあるピストン揉み出しですが、キャリパー形式が「ピンスライドタイプ」か「対向ピストンタイプ」かによって作業の難易度が異なります。性能面では対向ピストンがピンスライドを上回るというのが共通認識ですが、作業性に着目すると評価が逆転します。
キャリパーボディの一方からのみピストンがせり出すピンスライドタイプは、対向ピストンよりピストンのストローク量が多くなります。裏を返すと、対向ピストンキャリパーは向かい合ったピストンのストローク量がピンスライドキャリパーより少ないのです。
その上、文字通りピストンが向かい合っているため、中性洗剤と歯ブラシで汚れを落とす作業も、グリスやMR20を塗布する作業も手元が狭くてやりづらく、キャリパーピストンプライヤーでピストンを回す際にも苦労することがあります。
さらに対向ピストンキャリパーは、ピンスライドキャリパーでは容易にできる「ピストン取り出し」も容易にできない場合があります。
ボディを「割らないと」ピストンが取り出せない分割式対向キャリパー

ボディ合わせ面のジョイントシールが入手できることを確認した上でキャリパーを分割する際、締結ボルトはキャリパーがフロントフォークに付いた状態で緩めると良い。フォークから取り外してから緩めようとすると、バイスなどに挟んでしっかり固定しなくてはならないからだ。

車体に付いた状態で緩めるのは最初の一発だけで、フルード漏れを防止する観点でもボルトを抜くのはキャリパー単体にしてからの方が良い。このキャリパーのボルトは頭がトルクスタイプなので、作業を行うと決めたらトルクスソケットを準備しておこう。トルクスビットをT型と呼ぶのに対して、ソケットはE型トルクスと呼ばれている。
ピンスライドキャリパーのピストンは、パッドを外してブレーキレバーを何度も繰り返して握るうちにキャリパーから脱落します。そのため、汚れたピストンをキャリパーから抜いて単体で清掃し、場合によっては金属磨きでピカピカにするのも容易です。ちなみに、鉄製ピストンの表面にはハードクロームメッキが掛かっているので、ピカールをはじめとした一般的な金属磨きケミカル程度で傷がつくことは皆無です。
これに対して対向ピストンキャリパーは、機種によって違いはあるものの、ボディが向かい合った状態ではピストンが抜けないことがあります。対向ピストンキャリパーボディの構造にはボルト締結による分割式と、ワンピース、モノブロックと呼ばれる一体式があり、分割式の場合はボディを分割した上でピストンを抜くタイプが多いようです。
対するモノブロックキャリパーの場合、シールやピストンはボディの中心部分の隙間からセットするしかないので、分解することなくピストンを取り出せます(そもそもモノブロックは分割できないので当然ですね)。
パッドダストなどでリップが傷んだり、劣化したブレーキフルードが堆積したり、経年劣化でゴムが硬化したピストンシールやダストシールを交換することは、キャリパーメンテナンスの必須要件といえるでしょう。せっかくピストンを外したのに、これらのシールを交換しなければオーバーホール効果もスポイルされてしまいます。
これと同様に、分割式対向キャリパーのオーバーホールでは事前に「ジョイントシールを入手できること」を確認しておくことがとても重要です。
対向ピストンキャリパーのブレーキフルードは、ブレーキホースが取り付けられたボディから反対側のボディにキャリパー内部の通路を通して運ばれます。そしてボディの合わせ面には、フルードの漏れを防ぐジョイントシール(メーカーによって名称は異なります)が組み込まれています。
万が一、ジョイントシールが劣化して気密性が低下すればフルードが漏れてブレーキの効きに大きく影響します。ゴムの劣化はピストンシールやダストシールでも発生するので、キャリパーメンテの際に意識しているサンデーメカニックも多いと思いますが、ジョイントシールが入手できるか否かもとても重要なポイントとなります。
ボディ合わせ面のジョイントシールが入手できれば分解できる

このキャリパーシールのコンディションは悪くなかったが、メンテナンスを怠ったり保管状況が悪いバイクの中には、結晶化したブレーキフルードがシール溝に詰まったり堆積して、シールが押されて変形しているものもある。

分割式対向キャリパーのメンテナンスでは、ボディの合わせ面に入るジョイントシールが重要。RVFには1キャリパーあたり2個のジョイントシールが組み込まれている。ピストンシールのように摺動部品と接しているわけではないが、硬化したゴム部品を一度外して再使用すると、合わせ面の微妙な変化でシール性が低下してフルード漏れを引き起こす場合があるので必ず新品に交換すること。販売終了などで部品が入手できない場合、互換性や流用情報がないなら下手に分解しない方が無難だ。
ここで作業内容を紹介しているホンダRVFのフロントブレーキキャリパーは、異径ピストンの対向4ポットキャリパーで、左右のボディを4本のトルクスボルトで締結しています。トルクスボルトは一般的な六角頭のボルトや六角穴付きボルト(キャップボルト)より大きなトルクを伝達でき(頭をナメづらい)、これを4本使用することでキャリパーボディ剛性を向上させる目的があります。
肝心のジョイントシールはキャリパー1個に対して2個使用し、現在でも純正部品が供給されているため、ボディを分割して新品シールで復元することが可能です。
余談ですが、このキャリパーのピストンシールやダストシール、合わせ部分のトルクスボルトはNSR250R由来のパーツで、ジョイントシールはVFR750R(RC30)の機種コードの部品を使用しています。
ジョイントシールはピストンシールやダストシールと同様に、シールをセットする溝の直径や深さに応じて設計されています。そのため、自分が分解しようとするキャリパーのジョイントシールが販売終了や部品として未設定などの理由で入手できない場合でも、安易に流用することはできません。シール溝に対してシールが薄ければ新品を組んでもフルードが漏れるリスクがあり、直径が大きく厚ければボディの合わせ面に挟まりトラブルの原因となることがあるからです。
パッドの隙間から覗いたピストンの外周にダストがこってりと付着している様子が見えたら、すぐさまボディを分割してピストンを抜いて洗浄したくなるかもしれませんが、一度冷静になってパーツリストをチェックして、純正部品が入手できることを確認してからその先を考えましょう。
シール交換とピストン潤滑でブレーキ性能が大幅改善

ゴムシールを取り外したキャリパーはお湯に漬け込み中性洗剤で洗浄する。シール溝に付着したカチカチの結晶をピックツールなどでガリガリ削ると、溝に傷がつく危険性があるので、じっくり浸して柔らかくなったところをブラシで擦り落とすのがベター。
ピストンシールやダストシール、分割式対向キャリパーのカギを握るジョイントシールが入手できると分かれば、躊躇することなくフルオーバーホールが可能です。このキャリパーの場合、トルクスボルトを回すためのトルクスソケットを用意しなくてはなりませんが分解組立作業自体はさほど難しいものではありません。もちろん、ピンスライドキャリパーをはじめとしたキャリパーオーバーホールを一度も行ったことがないというのであれば、安易に手を出さずプロに依頼することをお勧めします。
分解したキャリパーの清掃にはお湯と中性洗剤が有効です。特にピストンシール溝の奥でブレーキフルードが結晶化して固まっているようなキャリパーは、フルードが持つ吸湿性という特性を利用する上でもお湯に漬け込む効果は絶大です。
キャリパーボディのブレーキフルード通路はお湯を通した後にエアーブロー、コンプレッサーがなければブレーキ&パーツクリーナーをスプレーして乾燥させます。さらにキャリパーにこびりついたブレーキダストや焼け跡はメタルポリッシュなどで磨き上げましょう。ピストンがキャリパーに入った状態で行う揉み出しではどうしても「攻めきれない」部分もありますが、ピストン単品なら思う存分磨けます。またこの時、ハードクロームメッキのサビの有無もしっかり確認しておきましょう。長期放置車の場合、吸湿性のあるブレーキフルードによって、ピストンシール接触部分に帯状のサビが発生することがあり、この場合はシールだけでなくピストン交換も必要です。そうした余計なトラブルを避けるためにも、定期的なメンテナンスは重要であり必要なのです。
ブレーキ性能の低下はある日突然生じるものではなく、時間を掛けて徐々に進行します。そのためライダーは変化に気がつきづらいものです。特にディスクブレーキはパッドが摩耗してもレバーやペダルの遊びが変わらないのでなおさらです。
しかしパッドが摩耗してキャリパーピストンの露出量が増えるほどに、ピストンに付着する汚れは増加して性能は低下します。キャリパーピストンの揉み出しに加えてオーバーホールを行うにあたり、分割式対向キャリパーではジョイントシールがいちばんのカギを握ることを知っておくと良いでしょう。
- ポイント1・メンテナンス性に着目するとピンスライドキャリパーの方が対向ピストンキャリパーより良好であることが多い
- ポイント2・分割式ボディの対向ピストンキャリパーをフルオーバーホールする際は、ボディ合わせ面のジョイントシールが入手できるか否かを確認することが重要
- ポイント3・洗浄と潤滑を入念に行うことで経年劣化による純正ブレーキキャリパーの性能は改善できる
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/565441/
純正ブレーキがもっと効く! ホンダRVF用対向ピストンキャリパーオーバーホールでカギを握るジョイントシールの有無【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/565441/565456/








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