燃焼室で生み出される燃焼トルクを効率よく引き出す「クロスプレーン・コンセプト」で設計された直列3気筒845ccエンジンを搭載し、2016年に登場したスポーツヘリテージモデル「ヤマハXSR900」。2022年には排気量を888ccへと拡大し、車体の姿勢を6軸で検知するIMU(Inertial Measurement Unit)を搭載し、緻密な電子制御化も実現している。
そのXSR900をベースに、1980年代に活躍した世界グランプリ・ファクトリーマシン「YZR500」をイメージしたスタイリングとしたのが、「ヤマハXSR900 GP」だ。昨年の発表から大きな話題となり、今年5月の発売以降も大人気となっているスポーツヘリテージモデルだ。
細部までこだわった作り込みと最新装備を多数搭載
XSR900 GPは、「The Embodiment of Yamaha Racing History(ヤマハレースヒストリーの体現者)」をコンセプトに、1980年代の世界最高峰ロードレースのファクトリーマシン「YZR500」をオマージュした新外装を装備。アッパーカウルのステーには丸パイプを採用し、ベータピンも装着。TFTメーターはアナログ風タコメーター表示も可能となっていて、シートに着座した際のハンドルまわりはセパレートハンドルもあって、当時の雰囲気にまとめられている。
そのセパレートハンドルに合わせてステップ位置も変更し、シートも新作。過度な前傾姿勢にならず、街乗りやツーリングでの快適性も確保したライディングポジションを実現している。そのライディングポジションとのバランスを図り、車体全体の剛性も見直されている。リヤフレームを新作し、エンジン懸架、スイングアームピボット部の締結剛性を調整して、ねじり剛性を強化。さらにハンドルのステムシャフトをアルミ化してフロント荷重のバランスも調整。前後サスは専用開発したKYB製フルアジャスタブルを装備し、フロントブレーキホースを変更してコントロール性を改善するなど、コーナリング中の安定感を向上している。
「CP3」とも呼ばれるクロスプレーン・コンセプト3気筒エンジンには、「YRC(Yamaha Ride Control)」を搭載。SPORT/STREET/RAINの3モードと、ライダーの好みに調整できるCUSTOM(2モード設定可能)の計5モードのエンジン特性を、走行シーンに合わせて選択できる。このYRCはIMUと連動することで、バンク角も反映したTCS(トラクションコントロール)、旋回性をサポートするSCS(スライドコントロールシステム)、前輪の浮き上がり傾向時にライダーを支援するLIF(リフトコントロールシステム)、バンク中の横滑りを検知してブレーキ圧力を制御するBC(ブレーキコントロール)など、マシン挙動のきめ細かい制御もサポートしてくれる。
さらに加減速中のシフトアップ/シフトダウンに対応した第3世代QSS(クイックシフトシステム)、軽いレバー操作と穏やかな車体挙動に貢献するアシスト&スリッパ―クラッチ、3速以上・約40km/h~での走行時にセットできるクルーズコントロールシステム、ナビアプリ(Garmin StreetCross)をインストールしたスマホとBluetooth接続することでナビゲーション機能が利用できるTFTメーターなども搭載。往年のグランプリレーサーを再現したスタイリングには、街乗りやツーリングでの快適な走りをサポートする最新機能が多数装備されているのが特徴だ。
XSR900 GPの足着き性をチェック
スタイルはレーシーだが、予想以上に乗りやすい
XSR900 GPを初めて見た時、YZR500をオマージュしたスタイリングの完成度(再現度)が高く、その走りはかなりスポーティなのではと思った。実際に試乗してみると、走りのスポーティさは予想どおりだったが、それよりも「乗りやすさ」が強く印象に残った。
XSR900 GPはセパレートハンドルを採用し、XSR900よりも前傾姿勢となる。しかし、そのセパレートハンドルのグリップ位置は高めに設定されていて、「思っていたより高いな」と思わず口に出た。それほど深い前傾姿勢にならず、予想していたよりも楽なライディングポジションとなった。それでも自然とフロントに荷重をかけられるので前輪の接地感が分かりやすく、ハンドル幅がタイトすぎないのでハンドル操作もしやすく、それがまず乗りやすさに感じられた。その一方で重心位置は高く感じられ、車体の押し引きには重量感があった。跨った状態では片足つま先立ちになり、ハンドル切れ角もあと数度あればという感じで、狭い場所でのUターンなど低速時の取りまわしには気を遣うこともあった。
しかし、アシスト&スリッパークラッチのおかげでクラッチレバー操作が軽く、アイドリング付近(目視で1350rpm程度)からトルクも太いので、走り出しは軽快かつスムーズ。直進性もよく、ハンドリングにクセもないので、街中でも乗りやすさを感じられる。その乗りやすさに貢献しているのが標準装備のクイックシフトシステム(QSS)だ。「第3世代」となるQSSは市街地走行で多用する速度域でのシフトアップ/ダウンの双方向ともにスムーズで、不快な衝撃も発生しない。制御が的確で、本当に実用的な装備に感じられた。今回はタンデム走行も行なったが、このQSSのおかげでマシン挙動もギクシャクしにくく、予想以上に走行しやすかった。タンデム時は前後サスの沈み込み量も増えるが、YRCとIMUの連動もあってハンドリングが大きな影響を受けず、さらにライダー・パッセンジャーともにシートの居住性が確保されていて身体もホールドしやすく、ブレーキング時にも車体バランスが崩れにくくなっていたからだ。
さらにスロットル操作が不要となるクルーズコントロール(3速以上・40km/h~でセット可能)も直感的に操作しやすく、走行中の速度調整、解除、再設定も簡単に行なえる。カウルの整流効果もあって、高速道路では快適度を高めてくれる装備となっている。ウインカースイッチは独自の形状だが操作性は良好で、バーエンドミラーは視点移動が大きくなるが後方視界は悪くない。最初は違和感があったが、試乗中に慣れてきた。
XSR900 GPのスタイルは1980年代のファクトリーマシンだが、その乗り味は最新装備によって、街乗りやツーリングでも扱いやすさが感じられるものになっていた。
特性の違いを体感できるYRCの走行モード
XSR900 GPは市街地でも乗りやすかったが、そうした乗りやすさに大きく貢献しているのがYRCの走行モードだ。前述のようにSTREET/SPORT/RAINの3パターンがあらかじめ用意されていて、「幅広い環境と路面をカバーし、市街地走行に適したモード」として設定されているのがSTREETだ。2000rpmくらいからトルクが立ち上がり、2500rpmで交通の流れに乗って走行でき、3000rpm以上はパワフルな加速力を発揮する。QSSのシフトチェンジもスムーズで、前後サスもフラットな乗り心地を提供してくれるので、マシン挙動がギクシャクしない。スロットルレスポンスはシャープすぎず、適度なマイルドさがあって扱いやすく、疲れにくい乗り味になっていた。
SPORTは「エンジンレスポンスが高まりワインディングやサーキットに適したモード」とされていて、ハイスロになったようにレスポンスがシャープになる。2500rpmから鋭い加速力を発揮し、中高回転まで回さなくても市街地では速すぎるほどだ。トルク変動も大きくなり、マシン挙動もギクシャクしがちだが、888ccのトルクとパワーを堪能できるモードだ。
RAINは「出力特性がマイルドになり、雨天など悪化した路面状況に適したモード」で、SPORTとは逆にスロットルレスポンスも穏やかで、全域でマイルドなトルク特性となる。加速も穏やかで、マシン挙動もフラットなので、パワーに振り回されない扱いやすさがある。雨天や疲労時に、ライダーをサポートしてくれるだろう。
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