公共交通機関にエコの概念が盛り込まれるようになり、排気ガスを出さないシステムを持つ車両が開発・投入される機会も増えた。中でも、都内を中心によく見かける非・内燃車といえば燃料電池車だ。
文・写真:中山修一
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■たいへん歴史のあるパワーソース
自動車には今も1800年代(19世紀)に考案・発明された技術がよく使われている。ガソリン車はもとより、バッテリーの電力でモーターを回転させて走るEV・電気自動車のルーツも19世紀まで遡れる。
今回のテーマに選んだ燃料電池車もまた、パワーソースの部分に限れば誕生時期は相当古い。
化学反応を発生させて電気を作り出すという、燃料電池の原理が発見されたのは、19世紀に入ったばかりの1801年のことだった。
1839年に英国の判事で化学者のウィリアム・ロバート・グローブが、水素と酸素を用いた燃料電池の製作を発表、1842年に具現化させた。同時にごく初期の白熱灯も考案している。
当初は発明者本人による「Gas voltaic battery(ガスボルタ電池)」の名称が与えられた。同じ方式の電池を「Fuel Cell=燃料電池」と呼ぶようになったのは1889年だ。
■宇宙開発にも使われた燃料電池
世界で始めて実用レベルに達した燃料電池が登場したのは1930年代の英国だった。技術者のフランシス・トーマス・ベーコンによるもので、この燃料電池の技術は1960年代のアメリカ・NASAの人工衛星や宇宙船の電源に応用された。
1950〜60年代に、燃料電池をタイヤで走る乗り物に組み込むアイディアが活発化。初の“燃料電池車”は1959年に実験目的で作られたトラクターと言われる。自動車への実装は1966年のGM製バンが初。ただしこちらも実験用だ。
その後も試験的な要素が強いまま燃料電池車は推移。開発が本格化したのは、エコが世界的に注目され始めた2000年代に入ってからだ。走行時に水しか出さないクリーンなエネルギー/動力源ということで、燃料電池車は好適なわけだ。
日本は燃料電池車の研究に比較的旺盛な国の一つで、2010年代には実用レベルの乗用車やバス・トラック車両が各種発売されるようになった。ただし累計販売台数は8,000台程度と言われており、まだまだ燃料電池車は“発展途上”といったところか。