マイカーやレンタカーを使わず公共交通機関で有名観光地へ行きたい……。旅行者ならフリー切符やおトクなクーポンを使って、ご当地の乗り物を経験するのも楽しみのことつだ。さて、それが高知市内の超メジャースポット・桂浜の場合はちょっとしたハードルが……!?
文・写真:中山修一
■路面電車で行けそうな雰囲気……だけど
今や「坂本龍馬の海岸」というイメージが大変強い桂浜は、高知県の高知市内に位置している。桂浜公園の名称で整備が行き届いており、水族館やお土産物店、飲食店なども併設され1日過ごして楽しめるスポットだ。
つい最近観光地化したわけではなく、景勝地として100年以上の歴史を持ち、大正時代以前は美しい月が出る場所ということで唄に詠まれるほどだった。現在の桂浜のランドマークになっている坂本龍馬の像が建てられたのは1928(昭和3)年5月27日だ。
高知市内には路面電車、とさでんが走っている。1904(明治37)年に開業した国内最古クラスの路線で、1912(大正元)年発行の「土佐電気鐵道路線案内」を開くと、桂浜への観光案内が現地の写真と共に掲載されている。
高知市内にある超有名観光地で、1世紀前の観光ガイドに紹介されているほどなら、それこそJR高知駅から路面電車に乗って終点まで行けば歩いてすぐ、のような感覚を持ちたくなる。
とさでん交通が運行する「桟橋線」が桂浜方面へ向かう路面電車だ。軌道が海方向へ200mほど延伸した以外、路線の佇まいは開業当時とあまり変わっていないようだ。
では約120年前と同じ要領で、今の終端・桟橋通五丁目停留所で降りれば簡単にアクセス可能かと言えば……高知駅〜桟橋通五丁目まで約3kmあるが、桟橋から桂浜を目指すにはさらに何と10km進まないといけない。
■昔は海からアプローチした「陸の孤島」
桂浜、市街地から何気に遠いのだ。1912年の路線案内にも続きがあり、桟橋線の終点で乗り換えるよう案内されている。
当時はどうやって行ったのかと言えば海路が主流だったようで、水上バスのような巡航船が出ていたらしい。
そのまま陸路で行くのはダメだったの? と、思いたくなるが、これは現地へ赴くと何となく理解できる。
桟橋のすぐ先に山が鎮座しているのだ。今でこそ高知県道34号線が敷かれトンネルで突っ切れるが、トンネルのない時代なら海を行った方が早い。
この山を越えれば桂浜まで数kmの平坦な道が続く、ように見える。ところが最後の最後にもう一つ、ちょうど壁のように桂浜を遮る形で山が現れる。
山越えを2回しなければ桂浜には陸路で辿り着けないわけで、かつては相当な陸の孤島だったのかも知れない。過去に路面電車の桟橋線を桂浜側まで延伸する計画もあるにはあったが、コストが合わず結局立ち消えとなってしまった。