同じ形でも大違い!? 近年は布と革以外も普及。車のシート、「素材」による長所と短所は?
現在クルマのシートに使われる表皮は布のファブリック、革、人工皮革のエクセーヌ&アルカンターラが3強である。
バブル期と重なった平成初期の日本車では6代目ローレルやアコードインスパイア&ビガーのように、シート表皮を前述した3つから選べるモデルもあった。
本稿では、同じ形状でも大きく異なる各シート表皮ごとの特徴や長所と短所を考察。シート表皮には意外なトリビアも多い。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、SUBARU、MAZDA、NISSAN
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■布といっても種類は多彩! 各シート表皮の長所&短所
クルマのシート表皮でもっとも使われることが多いのが布のファブリックだ。
ファブリックの表皮デザインは、2代目までのVWゴルフや1990年代初めまでのベンツなどでは「(シートの座り心地とはまったく関係なく)よく言えば質実剛健、悪く言えば事務的、ダサい」というものもあったが、1990年代中盤以降そういったデザインは見なくなった。
ファブリックの表皮は、全体的に見るとデザインのバリエーションの豊富さやコストの低さという長所を持ち、短所としては洗濯ができない布だけに手入れがしにくいという点が挙げられる。
また、ファブリックは一口のファブリックといってもジャージ、トリコット、モケットに分かれ、一般的に言われるそれぞれの特徴、長所&短所を挙げていくと
●ジャージ(ファブリック)
経糸と横糸を交互に合わせる平織で作られた繊維素材で、サラッとした手触りが特徴。ファブリックの中では汚れが付きにくい点が長所で、大きな短所はない。
●トリコット(ファブリック)
織り目が細かく、滑らかな手触りが特徴となる繊維素材。
長所は滑らかな手触りと通気性の良さ、短所は手触りが滑らかなためクルマのシート表皮として使うと滑りやすく運転姿勢が落ち着かないことがある点。
●モケット(ファブリック)
ループ状の糸で織り出したパイルの柔らかい手触りと高いグリップを持つ素材で、ファブリックのなかでは高級感と耐久性を持つ点が長所。
マークIIに代表される1980年代までの高級車に分類される日本車では、マルーンなどと呼ばれる現在マツダ3などが使うバーガンディのシートカラーをもっと明るくしたものがあったのも懐かしい。
短所としては生産に手間が掛かる素材のため、ファブリックの中ではコストが高いことが挙げられる。
●本革シート
その名の通り、牛の革を使ったシート表皮。
長所はソファなどと同様の高級感と耐久性の高さ、過ごしやすい季節であれば座った際の気持ちよさが浮かぶ。耐久性の高さもあり、欧米の黎明期のクルマではクルマが売れる台数が少なかったこともあり、革シートのクルマの方が多かったくらいだ。
いっぽう短所は、使い方によってはひび割れなどが起きることがあるのでクリームなどでの手入れの手間をしたい点、滑りやすいことが多い点、コストの高さ、冬場の座り始めの冷たさと夏場は蒸れるといったあたりだ。
冬場の座り始めの冷たさへの対応として革シートでは温まりが早いシートヒーターがかなり普及し、夏場の蒸れ対策もシートベンチレーションなどと呼ばれる送風機能を持つクルマも増えているが、これらの装備が付くとコストはさらに上がる。
また、ひと口に革シートといってもそのクオリティは車格などによってピンキリなのも事実なので、「革シートだからいい」と限らないのも難しいポイントだ。
●エクセーヌ&アルカンターラ
衣類や靴に使われるスエードは手触りや見た目の風合いはいいが、汚れに弱いなど、使用環境が厳しいクルマには使いにくい素材である。
日本の東レはスエードの弱点をなくした人工皮革を1970年代から商品化しており、日本ではエクセーヌ、米国ではウルトラウエード(現在日米はウルトラスエードの名前)、欧州ではアルカンターラのブランド名で展開。
1980年代中盤からクルマにも使われるようになり、欧州ではイタリアのランチア、日本車では冒頭に書いた平成初期の6代目ローレルやアコードインスパイア&ビガーが採用。ここ数年はシートだけでなくダッシュボードの一部などに使われることも増えている。
長所はスエードに通じるデザイン性の高さと手触りのよさ、コストがファブリックと革の中間に抑えられる点、短所は静電気が起きやすくパチッと来ることがあるくらいだろうか。
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