2020年8月31日に発売されたヤリスクロスはヤリスベースのコンパクトSUVで、その売れ行きは好調だ。
ヤリスクロスは、月販目標4100台に対して、2020年8月31日の発売開始から約1カ月の9月中に早くも累計受注3万台を突破する見込み、という勢いなのだ。
実際に販売店によると、「9月上旬に契約をいただいても、納車は11月下旬から12月中旬になる」という。
今はコンパクトカーとSUVの人気が高く、両方の要素を併せ持つヤリスクロスが好調に売れるのは当然だろう。
そこでヤリスクロスのライバルに対する長所と短所を明らかにし、グレード選びについて考えたい。
ヤリスクロスの購入を考えている場合は参考にしてもらいたい。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、平野学、池之平昌信
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ライバルを凌駕する走行性能と燃費
まずヤリスクロスの長所として、優れた走行性能が挙げられる。
エンジンは直列3気筒1.5Lのノーマルタイプとハイブリッドで、いずれも実用回転域の駆動力に余裕を持たせた。車両重量も軽く、ハイブリッド2WD・Gが1170kgだ。
ライバル車のキックスXは1350kg、ヴェゼルハイブリッド2WD・Zホンダセンシングは1320kgだから、ヤリスクロスは150kg以上軽い。
プラットフォームはTNGAの考え方に基づく設計の新しいタイプで、軽いボディと相まって走行安定性も良好だ。この走りのよさは、ベース車のヤリス譲りとなる。
エンジンの設計も新しく、ボディは軽いので、燃費も良好だ。
ヤリスクロスハイブリッド2WD・Gは、WLTCモード燃費が30.2km/Lに達する。キックスは21.6km/L、ヴェゼルハイブリッドは19.6km/Lだ。キックスのe-POWERと比べても、ヤリスクロスの燃料代は、数値的には72%に収まる。
またヤリスクロスは、ノーマルエンジンの2WD・GでもWLTCモード燃費が19.8km/Lだ。ライバル車のハイブリッドと同等で、この燃費のよさもヤリスから受け継いだ。
安全装備の充実度も高い。衝突被害軽減ブレーキは、昼夜の歩行者と昼間の自転車を検知できる。ライバル車のキックスとヴェゼルは、自転車を検知できない。
ヤリスクロスでは、右折時の対向車、右左折時に横断歩道上の歩行者も検知して、衝突被害軽減ブレーキを作動できる。
このほか後退時の安全を確保するブラインドスポットモニターとリヤクロストラフィックオートブレーキも、4万9500円という割安な価格でメーカーオプション設定した。
ライバルに比べて安い価格設定が魅力
車両の価格が割安なことも特徴だ。最上級になるハイブリッド2WD・Zの価格は258万4000円だから、同等の装備を採用するキックスXの275万9900円、ヴェゼルハイブリッド2WD・Zホンダセンシングの276万186円に比べて約18万円安い。
ちなみにコンパクトカーのエンジンとプラットフォームを使ったSUVの価格は、装備の違いを補正して、一般的にはベース車よりも35万~40万円高い。
ところがヤリスクロスは、ヤリスと比べた時の価格上昇も18万円前後に抑えた。そのためにライバル車と比べても、18万円ほど割安になっている。
ヤリスクロスが価格を割安に抑えられたのは、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)をヤリスとほぼ同じ数値にするなど、SUVとしての変更点が少ないからだ。
価格競争力を高める目的もある。それはライバル車のキックスやヴェゼルに対抗するだけでなく、同じトヨタのSUVを相手に、価格の整合性を図ることも含まれる。
ライズ2WD・Zの価格は206万円、ヤリスクロス2WD・Z(ノーマルエンジン)は221万円、C-HR・2WD・S-Tは241万円という具合に、SUVの価格を重複させず並べるためだ。
仮にヤリスクロス2WD・Zの価格がライバル車と同様に18万円高ければ、239万円になってしまう。そうなるとC-HR・2WD・S-Tの241万円と競争関係に陥り、ヤリスクロスが割高に感じられたりする。
トヨタのSUV同士で競争しないよう、価格の重複を避けたことも、ヤリスクロスが割安になった理由だ。
ヤリスクロスの価格には、同じプラットフォームを使って、将来的に背の高いコンパクトカーを開発することも関係している。
この価格分布の整合性を取るためにも、ヤリスクロスは割安になった。このようにヤリスクロスの割安感は、ライバル対抗というより身内の事情によるところも多い。