■究極の機能や性能を実現すると「変えたくても変えられない」!?
機能美という言葉を軸に他社の造形もみていくと、スイフトも、2代目から欧州を中心に大衆車として人気を持つ小型2ボックス車の基本といえる姿になり、それを大きく変更する意味はなかったといえる。
たとえば、世界の小型車の規範といわれるフォルクスワーゲンのゴルフも、初代から今日に至るまで、フロントグリルや車体寸法は変わっても、全体の輪郭に差はないといえる。スイフトも、現行の4代目で顔つきは変えたが、小型2ボックス車としての基本は変えていない。
日産 エクストレイルも、道具として使えるSUVという機能を形で表したのが初代であり、2代目もその方向を踏襲した姿だ。四角く見える外観は、室内を有効に利用できる実用性を示し、また悪路に分け入って運転する際に車両感覚をつかみやすくもする。
一方、現行の3代目は、基本的クルマの存在意義は同じだろうが、キャシュカイ(国内ではデュアリス)との共通性をもたらすため合理化が行われたせいか、外観に丸みを帯び、エクストレイルらしさが弱まっただけでなく、車両感覚も把握しにくい外観になった。見栄えを変えたことで、実用性が多少損なわれたといえるだろう。
プリウスは、世界初の量産HVとして1997年に生まれ、燃費で常に優れた性能を示すことを背負う車種だ。このため、初代では主に動力をガソリンエンジンからハイブリッド化することで燃費性能を2倍に高めることを実現した。
2代目以降では、クルマ全体での効率向上、それによる燃費性能のさらなる改善を進めるため、高速走行時の空気抵抗を少なくする造形が求められたはずだ。それが、2代目以降の輪郭に表れている。
今日、空気の流れはコンピュータシミュレーションで解明できるため、そこで得られた回答は半永久的といえる。しかもそれは世界共通の知見となるので、世界中のクルマの輪郭は似てくることになる。
それでも、2代目から3代目へのモデルチェンジでは、輪郭こそ似ているが、たとえばフロントバンパーの左右両側面は、2代目が丸みを帯びていたのに対し3代目では平面的な造形になった。このほうが気流の剥離が起きにくいという新しい空力性能が発見されたからだ。
変えたくても変えられない、究極の機能や性能を一度形で表現すると、外観がほぼ同じままでのモデルチェンジになりがちだといえるのではないか。
■見栄えの変わらない新車は優れた機能を示す
一方、同じ外観のままでは新車を買った喜びが半減しかねない。外観が大きく変わることが本人の喜びであるのはもちろん、周囲の人からも「新車を買ったのですね?」と声をかけられ、それが嬉しさを倍増しもするだろう。
代わり映えのしない外観のままでは、やがて新車販売の行方も落ちていく懸念がある。実際、好調なホンダ N-BOXも、対前年比では販売台数が下がっている。
また、時代が進むにつれて、技術の内容が変わったり、さらに新たな発見があったりして、機能美が現代とは違ってくる可能性もある。
最もわかりやすい例が、電動化だろう。ことに電気自動車(EV)になれば、エンジン車のようなラジエターグリルはいらなくなる。エンジンルームがなくても、バッテリー/モーター/制御機器などは、床下などに収められる可能性がある。
1886年にドイツのカール・ベンツがガソリンエンジン自動車を発明した当時、乗り物といえば馬車が代表であり、その延長のような姿でクルマは生まれた。そして約15年後にダイムラーが車名をメルセデスと名付ける1900年から、フロントエンジン・リアドライブ(FR)の原型が一つのひな型となる。
それから120年を経た今日、市販されるEVはまだ車体前方にエンジンがある時代と同様の姿をしているが、この先、EVでしか実現できない外観が生まれるかもしれず、それが次世代の機能美を生み出していくのではないか。
クルマの造形は、芸術作品ではない。美しさは求めても、あくまでそれは機能美であるべきだ。それが、工業製品というものである。
前型と同じ造形でのモデルチェンジは、機能も優れていることを示しているといえる。一方で、モノを買うことが喜びの一つであり、買ってよかったといえる性能だけでなく、外観の新鮮さも無視できず、常にそこが開発者たちの悩みどころでもあるだろう。
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