2020年8月31日に発売されたトヨタ「ヤリスクロス」の売れ行きが絶好調だ。月販目標4100台に対して、発売から約1カ月の9月中に早くも累計受注3万台を突破する見込み、という勢いだ。
今回はそんな大人気となっているヤリスクロスを、松田秀士氏が公道で初試乗し、長所・短所を洗い出した。また、トヨタがこだわったという4WD性能も専用コースでチェックしたので、その詳細をお届けしたい!
文/松田秀士
写真/奥隅圭之
【画像ギャラリー】公道試乗で売れる理由がよくわかった! 「ヤリスクロス」の詳細をチェック!!
■ヤリスでは手狭に感じる人にピッタリのサイズ感
トヨタ「ヤリス」はほとんど2シーターコンパクトと言っていいだろう。後席はいちおうあるが今どきの軽自動車よりも狭く、逆にフロントシートの居住性に限定して「これでいい」というユーザーにフォーカスしている。
その代わりに素晴らしいコンパクト感。身の丈感。こんなクルマが欲しかった! 人には打ってつけ。しかし、これじゃ小さすぎる。人も荷物も積めない。という人に「こちらをどうぞ」とトヨタの答えがこの「ヤリスクロス」なのだろう、と勝手に考えた。

ヤリスと同じTNGAのプラットフォーム「GA-B」を採用するが、乗ればまったくヤリスとは異なる。まずそのサイズ。全長4180×全幅1765×全高1590mmは超コンパクトSUVのトヨタ「ライズ」の3995×1695×1620mmと、「RAV4」の4600×1855×1690mmの中間を狙った絶妙のサイズ感。これにてトヨタSUV3兄弟がそろったわけで、ヤリスクロスを含めだんご3兄弟並みの大ヒット間違いなしの予感がする。


さらに室内スペースがヤリスと大きく異なり、とにかく広い。もちろんサイズの割にという意味だが、ラゲッジスペースにこのクラスとしては十分な余裕が生まれている。荷室容量はクラス最大の390L(110Lスーツケース2個搭載可能)。4:2:4分割可倒式のリヤシートを倒すことで搭載アレンジが増え、しかもさらに荷室容量を広げられる。しかも荷物を固定するフレックスベルトも装備されて便利。

またコンパクトSUV初のリヤバンパー下に足を入れるだけで開閉可能なハンズフリーパワーバックドアも採用。こちらは従来トヨタ車比2倍の速度を実現。アッパーカットを食らわないように気を付けたが、リヤゲートは寝ているので目前をなめるよう絶妙に開き杞憂に終わった。閉じる時は予約ロックスイッチを押すことで、リヤゲートが締まった後に自動的にロックされるので、待たずその場から離れることができるので時間の節約になる。
とまぁ、初めにヤリスとくるから小さい先入観を持ちがちだが、ライバルSUVと比較してもとてもユーティリティの面でアドバンテージを持ったSUVだ。
■「なんちゃって」ではないしっかりとした4WD性能
さて、ラインナップは3気筒1.5LガソリンエンジンにFFと4WD、同じ1.5LハイブリッドにFFと4WD(E-Four)が設定されている。
RAV4は「好きにまみれろ」というキャッチでオフロード性能にも力を入れているが、ヤリスクロスもオンロードにとらわれない仕上がりとなっている。
本試乗会では特設コースでの4WD性能の体験試乗ができた。まずエクステリアを見ればわかるように、ホイールとフェンダーとの隙間がしっかりととってある。前後のアプローチ/デパーチャーアングルもフロント19度以上/リヤ30度以上とRAV4に準じる。

注目はその4WD性能で、ハイブリッドはリヤにモーターを採用するE-Four。リヤモーターの出力はもちろんRAV4には及ばない5.3ps/52Nm(RAV4は54ps/121Nm)。しかしシフトセレクトレバー付近にあるTRAIL(トレイル)モードのダイヤル式スイッチをONにすることで、空転するタイヤに積極的にブレーキをかけ特設コースのバンク、モーグル、ローラーなどを走り抜けることができた。


興味深かったのはガソリンモデルの4WD性能。いわゆるパワートレーン直結の4WD機構ゆえに、最大50:50とリヤに大きなトルクをかけることができる。したがってハイブリッドと同じダイヤル式スイッチはマルチテレインセレクトとなり、MUD&SANDモードとROCK&DIRTモードの2種類がチョイスできる。
オフロードでは1輪ないしは2輪が浮き上がった場合、通常のESC(Electric Stability Control)はトラクションコントロールに加えエンジン出力を抑えてしまうのでトルク不足もあり脱出できない。空転輪に強いブレーキをかけることと、エンジン出力コントロールをより上げることで脱出することができるのだ。これがROCK&DIRTモード。
一方、砂地やぬかるみや雪ではそれだけでは潜る危険があり脱出できなくなる。ここではエンジンリミッターを解除して、車輪が潜る前に空転させて前に進める必要がある。それがMUD&SANDモードだ。
いずれにせよ後輪に大きなトルクを与えられる4WDだからできるワザ。その意味でここまで本格的な4WD性能を付け加えた1.5Lガソリンエンジン4WDモデルは注目に値する。
■気になる点はあれど トータルでよくまとまっている走り
では、最後にその走り味だ。ヤリスに比べて車高は60mm、最低地上高は40mm上がっている。したがってアイポイントも60mm上がっているので前方視界がよく、混雑した都市部で運転しやすい。Aピラーもヤリスに比べて立っていることも一因だ。
試乗したモデルは18インチ(215/50R18)仕様だったのだが、サスペンションのホイールトラベル初期の動きがスムーズで、路面の凸凹の処理が2560mmというホイールベース以上に感じる穏やかな乗り心地。


この点、ガソリンエンジンとハイブリッドでは少し差があって、ハイブリッドモデルのほうが少ししなやかで上質感がある。これはハイブリッドバッテリー搭載のために骨格が補強されていることも起因しているようだ。音振ではガソリンエンジンモデルの3000rpm以上のノイズがもう少し低減されれば迷わずスキー好きな筆者はこっちを選ぶ。
加速感はやはりハイブリッドのストップ&ゴーは素晴らしくストレスがない。ガソリンエンジンモデルは劣るがこちらもCVTのコントロールがいいので気になるほどではない。また3気筒エンジンらしい振動感はあるが、気になるレベルではまったくない。

ドライビングポジションは電動シートのおかげでマルチに調整可能。ただしトヨタ初の1モーターによるパワーシートなので、調整ボタンの形状に試乗中悩まされた。1モーターですべてのシート調整を行うにはクラッチによる切り替えが必要なため、これまで使ったことがない形状なのだ。いずれにせよこれは慣れが必要。
後席試乗も行った。リヤシート座面の長さも、背もたれの高さもしっかりあり、クッションフィールがホールド感も含め絶妙によく、後席の乗り心地はかなり良好。ヤリスに比べて左右ドアが立っていて余裕がある。天井も十分な高さで、間際にリヤガラスが来ることもなく安心感が高い。

最後にステアリングフィールにはこだわったというだけあって、ステアの切り始めの応答性と手ごたえが自然でとてもいい。電動パワーステアリングのパワーアップやサプライヤー変更、そしてトヨタ最新のプログラムを採用しているという。
コンパクトSUVにも妥協を許さないトヨタ式モノづくりの姿勢が、ヤリスクロスを上質に仕上げている。
