「すいません、こんなマシンができちゃいました……」
総じて、GSX-RRは非常にまとまりのいいマシンでした。基本に忠実にじっくりと作り込まれているので、尖ったところがない分、幅広いシチュエーションに対応できたはずです。
2020年はコロナ禍が大きく影響し、変則的な難しいシーズンになりましたが、ジョアンが安定して好成績を残した理由が垣間見えました。……というか、「これで成績が残せなかったら、あとは何をすりゃいいの?」と逆に聞きたいほどです。
スズキの愛すべき点として、自信のなさが挙げられます。常に「どや!」と胸を張っているメーカーもありますが、スズキは正反対。「すいません、こんなマシンできちゃったんですけど……いかがでしょうか……?」と、実に謙虚です。そして謙虚だからこそ、たゆまぬ努力を続けるメーカーでもあります。
……と言いつつ思い出しました。かつてスズキにもイケイケドンドン時代があったことを。そして勢い任せにたくさんの失敗を重ね、道に迷いまくったという過去があります(いつのことかはご想像にお任せします)。
そういう痛い経験があるからこそ、今のスズキは必ず戻る場所を用意しながら慎重に前進するメーカーになりました。斜面をそのまま上ると、つまづいた時に下まで転がり落ちてしまいますよね? でも階段にすれば、面倒だし時間もかかりますが、つまづいても1段だけ下がれば済む。そうやって1段ずつ階段を作り上げて、確実に王座に近付いていったのです。
GSX-RRに乗ってよく分かりました。スズキはやはり究極のコツコツ商会なんだ、と。だから記事中ほぼ「!」を使わないような実直なマシンを作れたんだ、と。
青木宣篤■1971年、群馬県出身。全日本ロードでの活躍を経て、1993年から世界グランプリに参戦開始。1997年には最高峰500ccクラスでランキング3位に。1998~2000年まではスズキファクトリーライダーとしてRGV-Γを走らせた。その後ブリヂストンタイヤの開発ライダー、スズキMotoGPマシンの開発ライダーを務め、ライディングに関する知見の深さは世界の一級品。
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