祝 スズキ世界王者!! MotoGPチャンピオンマシン緊急試乗で分かった! 「謙虚なコツコツ商会」の地味な凄味

究極の「イチイチ」を実現したエンジン

 そりゃ、理想を言えばピークと過渡の両方がパワフルであるに越したことはありません。でも、レーシングマシンの開発の基本は「あちらを立てればこちらが立たず」であり「二兎を追う者は一兎をも得ず」。どっちを取るかです。スズキは主には過渡特性に力を入れました。そう言いつつ、ピークパワーも求めた(笑)。

 MotoGPライダーは、どっちも欲しがるワガママさんだからです。そのワガママに一生懸命応えようと開発を進めた結果、GSX-RRのエンジンはまずまず両方のいいとこ取りができたようだ。まさに二兎を追う者が二兎を得たかのような、一挙両得一石二鳥のエンジンに仕上がっていると感じました。

 ワタシはよく「1:1(イチイチ)」という言葉を使います。ライダーの操作1に対して、1応えてくれるエンジン。これが理想です。アクセルを開け始めてプッと火花が飛ぶ瞬間から、1万7000rpmの超高回転域まで、イチイチであること。GSX-RRは現時点でのイチイチの究極体と言える仕上がりでした。

 しかも今のMotoGPは開発費の高騰を抑えるためにレギュレーションの縛りが大変厳しく、一発逆転的な飛び道具がほとんど使えない状況です。そしてレギュレーションの範囲内でやれることはほぼやり切っている。あとはもう、丹念に、地道に、燃焼を効率化し、ムービングパーツの摩擦を最適化し、吸排気系を見直し、ちょっとずつ、ちょっとずつ、イチイチの精度を高めていった成果を、右手で感じることができました。

 ね? 地味でしょう?(笑)でも、こういう実直な開発はスズキのお家芸でもあります。量産車でいえば、ひとつのモデルの息が長く、じっくり時間をかけて作り込んでいくやり方が得意です。お金をかけず、でも時間と手間をかけて、モノをよくしていく。

 MotoGP参戦メーカーの中でも、スズキはかなり低予算かつ少人数で運営しています。ホンダ、ヤマハ、ドゥカティ、そしてKTMはファクトリーチーム2台にサテライトチーム2台、計4台のマシンを走らせていますが、スズキとアプリリアはファクトリーチームだけで、2台のみ。開発のことを考えれば台数は多いほどデータが手に入るので有利ですが、なにしろ予算規模はホンダに比べて1/10ともウワサされているスズキ(実態は知りません)。

 だからアレコレ手を出さずに(出せずに)、1歩ずつ歩むしかありませんでした。開発が強く制限されている今のMotoGPにおいては、その姿勢が功を奏し、完成度の高いエンジンとなり、MotoGP2年目のジョアン・ミルがタイトルを獲得するという成果に結びついたのでしょう。

スズキが世界グランプリ最高峰クラスでチャンピオンを獲得するのは、背景右のケニー・ロバーツ・ジュニア以来20年ぶりの快挙となる
スズキが世界グランプリ最高峰クラスでチャンピオンを獲得するのは、背景右のケニー・ロバーツ・ジュニア以来20年ぶりの快挙となる

高品質な低反発マットのようなフレーム!?

 さて、車体まわりに目を移してみましょう。いや~、よくできたフレームだ……。その乗り味、まるで非常に質の高い低反発枕のよう。……え? よく分からない? おかしいな……。我ながら最高に分かりやすい例えだと思ったんだけど。

 高品質な低反発マットって、体を預けるとゆっくりとムニューッ沈み込んでくれますよね? 安物のようにイヤな跳ね返りも沈み込みすぎることもなく、ほどよく気持ちよ~く体を支えてくれる。ああいう感じなんですよ。……え? ますます分からない? おかしいな……。

 GSX-RRのフレームも、エンジン同様に質実剛健で、特別に際立った何かがあるワケではありません。だが、絶妙なしなり感があります(皆さんあまり信じてくれませんが、フレームのしなりって本当に感じ取れるものなんですよ)。

 高い荷重がかかった時にムニューッとフレームがしなり、しなった奥のところでほどよく気持ちよ~く荷重を受け止めてくれるんです。分かります? 分かりませんよね(笑)。だからまぁ、だいたい高品質低反発マットのようなもんだと思ってもらえれば間違いありません。

2020年型に施された青×銀カラーは、スズキ創立100周年を記念したもの。1962年に初めて世界チャンピオンを獲得した時の色を再現
2020年型に施された青×銀カラーは、スズキ創立100周年を記念したもの。1962年に初めて世界チャンピオンを獲得した時の色を再現

 この絶品のフレーム特性も、昨日今日でできるものではありません。エンジン同様に長い時間をかけて、ちょっとずつ進化させた成果です。そういえば以前、GSX-RRはフレームにカーボンを巻いて注目を集め、その後ライバルメーカーたちもこぞってカーボン巻きをしていましたね。

 アレも実は開発費を抑えるための苦肉の策です。フレームの開発にあたり、ちょっと剛性を変えてみたくなるたびに新しいアルミフレームを作っていては、莫大なコストがかかってしまいます(某メーカーはそうしているらしい)。「じゃ、とりあえずお金かけないようにカーボン巻いてみる?」と試したのが発端です。そして実際にカーボンを巻くと(正確には接着している)剛性は変化し、乗り味も変わりました。

 そうやって、なるべくお金をかけずに見つけた最適な剛性バランスがしっかりと落とし込まれている、最新GSX-RRのアルミフレーム。もうカーボンは巻かれていません……。

 カーボンといえば、ワタシ今回、初めてカーボンフロントフォークが使われているマシンに乗ったことになります。軽いッスね。実はGSX-RRにカーボンフロントフォークが使われていることを忘れていて走り出し、「おっ、なんかフロントまわりが軽いぞ」と。

 走り終えてから「何かバランス変えました?」と聞いたら、「カーボンフロントフォークじゃないかな」と言われ、なるほど、と思いましたね。聞くところによると1kgほども軽くなっているそうです。これがまた難しいことに、バイクの場合は軽ければいいってものじゃない。

 バイク乗りの方からお分かりいただけると思いますが、フロントが妙に軽いとフロントの接地感が損なわれ、かえって不安を感じたりすることもあるんです。でもGSX-RRのカーボンフロントフォークは、動きこそ軽快ですが、接地感も豊かで安心できます。恐らくカーボンフロントフォークも適度なしなりを生んでいて、それが接地感につながっているのでしょう。また、ウイングレットのできばえも優秀で、これもフロントに接地感をもたらしていました。

次ページは : 「すいません、こんなマシンができちゃいました……」

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

トヨタの韋駄天が覚醒する! 6代目NEWスターレットのSCOOP情報をはじめ、BC的らしく高級車を大解剖。さらに日産・ホンダの協業分析、そして日向坂46の富田鈴花さんがベストカーに登場! 新社会人もベテランビジネスマンまで、誰もが楽しめるベストカー5月10日号、好評発売中!