■販売系列体制のメリットとデメリット
まず(「販売チャンネル制度」の)分かりやすい「欠点」から述べる。
販売系列の欠点は、当たり前の話だが、ユーザーが全店で全車を買えないことだ。例えばアルファードが欲しいのに、近所にトヨペット店がない場合、遠方まで出かけなければならない。しかし全店が全車を扱う今ならその必要もない。自宅付近のトヨタ店やトヨタカローラ店でも購入できる。
細かなことをいえば、販売会社によって残価設定ローンの残価率、下取り車の売却額などが微妙に違う場合もある。販売店によると「無用な競争を避ける意味もあり、値引きなどの条件はどこでも大差ない」というが、全店が全車を扱えば、比べて買う時は都合が良い。
もっともそれは、以前から全店の取り扱い車種として用意されていたプリウスやアクアにも当てはまることだ。
結局のところ、販売系列の欠点、即ち全店が全車を扱う体制に移行したメリットは、全店で全車を買える利便性に尽きる。
逆に販売系列を設けるメリット、全店が全車を扱う欠点は、ひとつの店舗が膨大な車種を売ることだ。販売系列を設けた理由は、クルマが専門性の高い商品で、車種の性格に応じて販売店を区分することにあった。この系列を撤廃すると、取り扱い車種が増えて販売店の負担も増す。
トヨタの販売店が全店で全車を扱う体制に移行した時、新規の取り扱い車種に関して、勉強会などを実施するのか販売店に尋ねた。返答は以下の通りであった。
「新型車を除くと勉強会は実施されず、商品知識は自分で覚える。従来から付き合いのあるお客様は、大半が同じ車種に乗り替えるが、新規のお客様は違う。新しい取り扱い車種を希望することも多く、幅広い商品知識が求められる。特に点検や車検を担当するメカニックは、覚えることも多い」。
■車種によって異なる安全装備や運転支援装置の性能
たとえばクラウンは後輪駆動で、プラットフォームやパワートレーンは、今のトヨタ車の中では特別な設計に位置付けられる。全店が全車を扱う体制に移行すると、スタッフの負担増加は少なくないだろう。
クルマの販売店は、顧客からアドバイスを求められることも多い。特に最近は安全装備や運転支援機能が高度化しており、各グレードに装着される装備の違いもさまざまだ。オプションも豊富で特別仕様車もある。
顧客から「どのグレードが良いですか?」と尋ねられた時、相手の希望を聞いて推奨されるグレードやオプション装備を即座に示せないと、顧客満足度を下げてしまう。売れ行きにも結び付く。
表現を変えると、日本でクルマの普及に努めた自動車業界の先輩方は、そこまで考えて系列を設けた。日産やホンダも同様だ。それを「全店で全車を買えたほうが(あるいは販売できたほうが)便利」と片付けたのでは、先輩方に叱られるだろう。系列化の本質は入念な顧客サービスにあった。
トヨタ自動車販売の初代社長を務めて「販売の神様」と呼ばれた神谷正太郎氏は、「一に需要家(ユーザー)、二に販売店、三に製造家(メーカー)」という言葉を残している。ユーザーを大切にするからこそ、2番目には毎日顧客に接する販売店を尊重する必要がある。取り扱い車種を専門化する販売系列も、この考え方に基づいて設けた。従って系列化の一番のメリットは、前述の入念な顧客サービスにあり、廃止はその低下を意味する。これは今の販売体制が生み出した甚大な欠点だ。
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