■体制移行による販売推移の傾向
そして全店が全車を扱うと、売れ筋が販売しやすい車種に偏る。人気車は売れ行きをさらに伸ばし、不人気車は一層落ち込む。最近の登録台数を見れば明らかだ。
例えばアルファードとヴェルファイアの姉妹車を比べると、現行型になった直後はヴェルファイアが多く売れていた。これがマイナーチェンジでフロントマスクを変更すると、順位が逆転してアルファードが少し上まわった。
この後、全店が全車を扱う体制に移行すると、今まで両姉妹車を扱わなかったトヨタ店やカローラ店でもアルファードが売れ始め、ヴェルファイアを扱っていたネッツトヨタ店でもアルファードへの乗り替えが始まった。
その結果、2020年9~11月には、アルファードが1か月当たり1万台前後も登録され、ヴェルファイアは1250台前後だ。両姉妹車で約8倍の差が開いた。
このほかの車種も、ハリアー、ライズ、ルーミー(姉妹車のタンクを廃止して需要が集中)は売れ行きが伸びたが、クラウンやエスクァイアは落ち込んだ。
例えばクラウンのユーザーがアルファードに乗り替えを希望した時、従来なら販売店をトヨタ店からトヨペット店に変えねばならない。トヨタ店は顧客を逃すまいと、いろいろな好条件を示してクラウンへの乗り替えに力を入れただろう。それが今なら全店が全車を扱うので、クラウンからアルファードへの乗り替えも簡単だ。アルファードが売れてクラウンは落ち込む。
■人気車はより人気に、不人気車はより不人気に
この経緯は、系列を撤廃して10年以上を経過したほかのメーカーを見れば明らかだ。ホンダではN-BOXとN-WGNとフィットとフリード、4車種の販売台数を合計すると、国内で売られるホンダ車全体の70%前後に達する。売れ筋が販売しやすい軽自動車とコンパクトな車種に偏り、ステップワゴン、オデッセイ、さらにモデル末期とあってヴェゼルまで売れ行きが低迷している。
日産もルークス+デイズ+ノート+セレナで、国内で売られる日産車の50%以上を占める。系列の撤廃は、メーカー内部の販売格差を拡大させる。
その結果、車種の選択肢が減ってしまう。
日産では2014年以降に発売されたのは数車種に限られる。ホンダも、アコードは、北米で現行型が発売された後、2年半にわたり日本国内では安全装備の劣る旧型を売っていた。販売格差が拡大すると、売れ筋車種が減り、国内向けの商品開発も滞る。日本のユーザーは、選べる自由を制限されてしまう。
トヨタもすでに、前述の通りタンクを廃止して、ポルテ&スペイドも終了した。今後はプレミオ&アリオンやプリウスαもなくなる。これも全店が全車を扱う目的のひとつだ。自動的にリストラすべき車種が浮かび上がる。
店舗数も同様で、トヨタの4系列は2010年には日本国内で5000カ所を超えていたが、今は約4600カ所だ。トヨタ店とトヨタカローラ店が隣接する地域など、今後は販売会社同士の販売激化もあって、店舗の統廃合が進む。
以上のように全店が全車を扱う体制に移行すると、さまざまな分野で規模が縮小される。「便利になった」と喜んではいられない。
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