かつて「トヨタディーラーの接客対応は、すべての小売店の見本」と言われていた時代があった。きめ細やかなサービス、深い商品知識、訓練された対応で、自動車産業の最前線を支えるサービス体制を構築してきた。
そのトヨタディーラーの接客体制が、ここ最近以前より様相を大きく変えている。理由は「販売チャンネル制度の実質廃止」。すべてのディーラーですべての車種を販売することになり、個々の商品の説明を、個々の営業マンでは対応しきれなくなっているのだ。
約半世紀の歴史がある日本の販売チャンネル制度が、2020年5月に廃止となって8カ月。本稿では、この販売チャンネル制度があってよかった点とよくなかった点、廃止により現場で起こっていることをレポートします。
文/渡辺陽一郎 写真/トヨタ、ベストカー編集部、奥隅圭之
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■直営販売会社の統合により、全店が全車を販売に
日本で新車を買う時に訪れるクルマの販売店は、基本的にメーカーごとに区分されている。
クルマは機能が豊富な専門性の高い商品で、車両を預かって点検や整備を行うアフターサービスも実施する。リコールによって部品の交換なども行うため、量販店で全車を手広く売るわけにはいかない。
そこで新車の販売店はメーカー別に分かれるが、トヨタには、トヨタ店/トヨペット店/トヨタカローラ店/ネッツトヨタ店という4つの系列がある(別枠で上級ブランドのレクサスも展開している)。1960年代から1980年代の前半に掛けて、取り扱い車種の増加に柔軟に対応するため、系列を設けて販売店を拡充させた。
トヨタ店はクラウンやランドクルーザー、トヨペット店はアルファードやハリアー、トヨタカローラ店はカローラ、ネッツトヨタ店はヤリス(旧ヴィッツ)という具合に、専門に扱う車種も用意していた。
ところが2019年4月に、東京地区ではトヨタの直営だった販売会社を統合して、トヨタモビリティ東京を発足させた。これに伴いトヨタ店やトヨペット店という4系列は廃止され(レクサスは存続)、全店が全車を販売するようになった。
2020年5月になると、ほかの地域でも、全店で全車を扱う体制に移行している。東京地区を除くと、トヨタの販売会社には、メーカーに頼らない地場資本が多い。そのためにトヨタ店やトヨペット店の名前を冠した販売会社と販売系列は存続しているが、専売車種は全国的に消滅して、全店が全車を販売している。
専売車種を含めた取り扱い車種の違いが撤廃されると、販売系列も形骸化する。
トヨタ店は高級車のクラウンを扱うことで上級店舗のイメージを表現しており、カローラ店は、カローラによって誰にでも馴染みやすいアットホームな雰囲気を感じさせた。全店が全車を扱う体制に移行して時間が経過すると、販売系列の個性も薄れていく。
そこで販売系列の長所と欠点について、ユーザーの立場で考えたい。
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