立皇嗣の礼をもって一連のお代替わりの儀式を済まされた令和の皇室。一昨年行われた即位の礼における祝賀パレード(祝賀御列の儀)では、トヨタ・センチュリーの特注オープンカーが登場し、多くの国民から祝福と注目を浴びたことは記憶に新しい。皇嗣となられた秋篠宮殿下も皇太子のお立場を継承する形となった。こうした行事やお出かけの際に使用される、天皇陛下や上皇陛下をはじめとする皇室の方々の乗り物事情はどう様変わりしたのか。皇室の乗り物に焦点を当てて、その秘密のベールの向こうを覗いていこう。
文・写真/工藤直通
※トップ画像は、天皇旗を立てた「大型リムジン御料車」センチュリーロイヤル
【画像ギャラリー】貴重写真24枚で振り返る皇室のクルマの歴史
■天皇陛下の御専用車はどんなクルマ?
内廷の御身位にある方(天皇皇后両陛下、上皇上皇后両陛下)の自動車は、大きく分けてご公務で乗られる菊の御紋章が付いた皇ナンバーのものと、私的な行事で乗られる品川ナンバーのものと2種類が存在する。
昭和から平成にお代替わりしたとき、当時皇太子であった上皇陛下は、昭和天皇から引き継ぐ専用に開発された『大型リムジン御料車』(プリンスロイヤル)について「特別な装い感が強く、国民との隔たりを生むのではないか」とお考えになり、日常の公務で使用する御料車は皇太子時代にお使いのセダン(日産プレジデント)をそのままご使用になった。このような大型リムジン御料車を普段使いしないというお考えは、平成から令和へのお代替わりでも踏襲された。
平成以後、大型リムジンタイプの御料車は「国家行事や皇室の重要儀式」の際に、セダンタイプの御料車は「国体へのご出席などの公的なご公務」に、ご静養などの私的行事へは「菊の御紋章」が取り付けられていない品川ナンバーのセダンタイプと使い分けされた。これは「公私の別をはっきりさせたい」という上皇陛下の当時のご意向によるものだった。
現在ご使用の菊の御紋章が取り付けられた御料車は、大型リムジンタイプ、セダンタイプともにトヨタ自動車製をご使用になられている。車種の選定にあたっては、宮内庁が指示する特別な仕様に基づいた「特別架装」が施される。また一定の機密事項も含まれているため、これらの条件に合致したメーカーとしてトヨタ自動車が選定され随意契約により調達(購入)しているのが実情だ。その契約書には、皇室用に製造・納入された事実を「宣伝広告等に利用してはならない」と特記されている。
現在の大型リムジンタイプは国産としては2代目となる「トヨタ・センチュリーロイヤル」だが、初代はプリンス自動車工業(後に日産自動車と合併し消滅)が満を持して製造した国産初の御料車「プリンスロイヤル」であった。
初代大型リムジンタイプ御料車「プリンスロイヤル」は平成の中頃に製造後40年近くが経過し、部品の調達が難しくなったことなどから日産自動車から使用を段階的に中止してほしいと要請が宮内庁に出された。これを受けて新リムジン御料車の製作が検討されたが、日産自動車は辞退し、唯一開発に手を挙げたのがトヨタ自動車1社だけであった。昭和の時代は、皇太子時代の上皇陛下に自動車を献上するなどして皇室との関係の深かったプリンス自動車工業→のちの日産自動車という流れもあり、「御料車は日産」というイメージが定着し、他のメーカーの追従を許さないといった雰囲気もあったにもかかわらず、日産が辞退をしたことで、結果的にトヨタがその大役を担うこととなったのだ。
専用に開発され、特別感の強い「リムジンタイプ」に対し、一般向けにも市販されるモデルをベースとした「セダンタイプの御料車」は平成になってから誕生したこともあり、それまでの日産プレジデントに加えてトヨタ自動車のセンチュリーも参入することになった。トヨタも昭和の時代に全く宮内庁に自動車を納めていなかったわけではなかったが、これも時代の流れというものであろうか。現在は日産が御料車の製造から手を引いてしまっているため、同社によるセダン御料車は存在しない。
一方、私的なご旅行や行事の際にご使用になる品川ナンバーの自動車は、宮内庁では「特別車」と呼び、「御料車」とは区別している。車種はセダンタイプを基調とし、こちらも宮内庁の仕様によって「特別架装」が施されるため、御料車同様にトヨタ・センチュリーが選ばれている。このほかでは、内廷の皇族である愛子内親王殿下用として品川ナンバーを付けたミニバンも存在し、ご通学のほか御一家お揃いでのお出かけなどに使用されている。
コメント
コメントの使い方