目の前に流血者が!! 覚えておけば止血できる ドライバーが修得すべき止血法

目の前に流血者が!! 覚えておけば止血できる ドライバーが修得すべき止血法

 物騒な凶悪事件が頻発しているなか、「もし目の前で血を流している人がいた場合どうするか」という知識は、案外知られていない。もちろんそんなケースはないにこしたことはないが、万が一ということもある。知っていれば救える命がある。本稿では、もしかして目の前に血だらけの人がいた場合どうすべきか、クルマを運転する機会が多い人は知っておいたほうがいいのではないか、という観点で、緊急時の止血法を紹介したい。

文/照井資規(元陸上自衛隊衛生官)
写真/照井資規、AdobeStock(アイキャッチ写真:Adobe Stock@Paylessimages)

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ドライバーの活躍が救命に貢献したラスベガス銃乱射事件

 多数の負傷者が発生する状況では、すべてのドライバーは救命の鍵を握る「Immediate Responders(直ちに救命の手を差し伸べる人)」である。災害時に輸送手段を持つ人が救命技術を備えることがいかに重要であるか、そのことを筆者は2019年11月に現地で世界中の救急医療の指導者を集めて開催されたITLS High Threat course(※)を受講することで確信した。

災害時に輸送手段を持つ人が救命技術を備えることが重要となる
災害時に輸送手段を持つ人が救命技術を備えることが重要となる

 アメリカ合衆国で2013年4月に発生したボストンマラソン爆破事件(図参照)では、自分で動ける軽傷者が直近の病院に集中してしまい、重傷者は遠方の病院に救急車で運ばざるを得ない事態となった。

 2015年7月1日にハートフォードコンセンサス第3勧告書が公表されて以降、突然死や外傷死の救命における市民の役割はこれまでの「By Stander(傍にいる人)」から先の「直ちに救命の手を差し伸べる人」へと大きく変わり、同年10月5日よりホワイトハウスからの通達によりStop the Bleed(致命的出血への止血教育)キャンペーンが開始され、毎年3月31日を「NSTBD:National Stop The Bleed Day」として定め、全アメリカ国民が学校や教会などで救命について学ぶ日となった。

 2020年はコロナ禍で3月31日にNSTBDを行えなかったが、5月22日に日程を変更して実施した。それほど重要なイベントである。ボストンマラソン爆破事件から5年後、2018年11月に発生したラスベガス銃乱射事件では、軽傷者は自ら救急処置を行い私有車に相乗りで遠方の病院に向かった。救急車で運ばれる重傷者のために近傍の病院を空けるためである。災害時にドライバーが何をすべきかを実証したテロ事件であった。

■日本に最も必要な意識改革

 救命できる出血の中で80%は診療資格の有無に関係なく、誰でも行える「直接圧迫止血法に持ち込む」ことによって「出血を制御」することができる。

 治療しなければ止められない出血であっても、様々な止血法を組み合わせ正しく直接圧迫止血法へと持ち込むことができれば、治療を受けるまでの間の時間を稼げるため、止血ではなく「制御」と表現される。

 軽傷者が時間を稼いでいる間に重傷者が優先的に救命治療を受けることができる。この処置や公共の考え方を「By the time(時間を買う)」と言う。

 ドライバーが80%を占める止血を自ら行えて、自分の車で運ぶことができるのであれば、現場近傍の病院は残りの20%の重傷者の治療に専念できる。しかも軽傷者が一斉に病院に押しかけず、重傷者は現場で処置を受けてから1人ずつ運ばれてくるのであるから、病院は治療能力を最大発揮できる。最近ではこのことを「triage(傷病者の選別)」と考えるようになった。

 日本ではコロナ禍でトリアージと言えば「命の選別」のような悲壮なイメージで語られ、医療ドラマでは現場で医師がタグをつけて回る姿が描かれる。しかし、アメリカ、フランス、ヨルダン、南アフリカで危機対応の取材をしてきた筆者が実感する「トリアージ」とは、軽傷者には市民自らが「命の急を救う」救急処置を行い、出来る限りの努力をして治療を必要とする重傷者を医師の手に委ねるという、前向きで積極的な当事者意識と姿勢である。救急隊員は市民による救急処置に応じて専門技術を以て病院までの命を繋ぐ、故に救急隊員が行うものを「応急処置」と言う。

 最近は現場に歯科医師であるDER:Dental Emergency Responder が駆けつけるようになり、外科的気道確保や麻酔などの「応急治療」により救命率の向上に努めるようになった。

 今回はドライバーが行える止血法について解説するが、自らできる限りのことを行い、時間を稼ぎ、重症者のために病院を空けるという考え方は、外傷に限らずコロナ禍にも共通する、災害大国日本で今、最も求められる意識改革だ。

■交通事故関連の出血部位と推定出血量

交通事故による致命的な出血は骨折を伴うものとして考える
交通事故による致命的な出血は骨折を伴うものとして考える

 シートベルトやエアバッグなどの乗員保護具やASV:Advanced Safety Vehicle(先進安全自動車)により乗員が保護されること、人の皮膚を破るには大きなエネルギーを必要とするため、工事事故による外傷は、血液が体表から外に出る外出血よりも体の中で骨折を伴う鈍的外傷による出血の方が多い。体の外に出血が見られなくとも、体内には血液が大量に溜まる空間「胸腔、腹腔、後腹腔(くう)」があり、相当な量の出血をしていることがある。

 骨折でも出血するため「新時代のドライバーの役割と必要知識」で述べたように30分で死亡率が50%に達することがある。

 これは地震による家屋倒壊で負傷した場合にも共通することが多いため、日本では頻度の多い外傷だ。

■救命止血教育は難しいが成し遂げなければならない

 救命止血法はAEDを用いる心肺蘇生法よりも難しい。心肺蘇生法は老若男女いずれも方法は同じで、AEDはやるべきことを順にアナウンスしてくれる。しかし止血は、それぞれに方法が異なり、組み合わせもあり、頼りになるのは救護者の記憶だけである。

 それ故にNSTBDのような定期開催のイベントが必要で半年に一度は教育することが望ましい。災害大国日本では気候変動により土砂崩れなどの頻度も増している。少なくとも運転免許更新時に救命教育が行われるようになれば災害時の救命率が大きく向上するのだが。

戦死・戦傷死の減少と防ぎえた戦死原因の変化
戦死・戦傷死の減少と防ぎえた戦死原因の変化

 図「戦死・戦傷死の減少と防ぎえた戦死原因の変化」にあるように、ベトナム戦争からの50年で医学が進歩し、医療従事者以外でも相当な救命能力を持てるようになった。身近なものはAEDであろう。心臓の専門医でも成功率20%程度であった緊急の除細動が、誰でも行えるようになった。

 しかも東京マラソンでの社会復帰率は現在まで100%だ。救命止血帯、包帯状止血剤の開発により手足の出血による死亡は半分以下になった。止血ではないが、緊張性気胸の救命は教育だけで33分の1にまで減らすことができている。

外傷の救命の連鎖
外傷の救命の連鎖

 教育だけでも多くの命が救えるのであるから、図「外傷の救命の連鎖」の始まりである市民Responderが行う救急処置は極めて重要だ。救命止血教育は難しくとも成し遂げなければならない。災害大国であれば尚更だ。

■止血教育は血液の理解から

血液のはたらき
血液のはたらき

 止血については新たに解明されたところもあれば、世の中に間違った情報が流布してもいる。「血液」についての理解から始めるべきだ。血液は液体に見えるが、半分近くを細胞が占める「流体の臓器」であり講談社刊の「働く細胞」に描かれているとおりだ。出血とは図にある血液の「運搬、緩衝、防御」の役割が失われることであり、成人であれば1リットル、小児であれば缶コーヒー1缶分の出血で致命的となる。

 血液の75%は主に身体の外側を流れる静脈の中にあり、銃や爆発による外傷でもない限り多く目にするのは静脈からの出血である。静脈には高い圧力がかかっていないため、適切に直接圧迫止血法に持ち込めば出血を制御することができる。出血の80%は直接圧迫止血法で制御できるのはこのためだ。図「出血と外傷の区分」にあるように動脈性、静脈性の区別なく流れ出ている「活動性出血」を制御する。

■止血のしくみの正しい理解

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