■表向きの話はここまで。実はこの事件の裏にはまだ続きがあった
まずハミルトンのリアウィング問題は、単にDRSの問題ではなかったようだ、FIAはなぜメルセデスのリアウィングをアッセンブリーごと外してFIAの車検場に持ち込んでの検査をしたのだろうか?
それは問題はDRSではなく、何とリアウィングのメインエレメント、つまりリアウィング自体が後方に沈み、それが85mm以上の隙間を作り出していたというのだ。そうならばフレキシブルリアウィングエレメントであり、これは違反ではないか。
これを裏付ける事件が同じパークフェルメで起きていた。予選後フェルスタッペンがハミルトンのリアウィングに触り何かをチェックしていた。他の車体に触れることは禁止されていて、彼はペナルティの罰金を払うはめになってしまった。そう、彼が見たのはハミルトンのリアウィングの違和感だったのだ。
こうなると辻つまがあう。しかし車検後メルセデスのウィングは返され、ペナルティはそのまま残り、違反問題は単なるマウントボルトの緩みによって生じた、不可避な事故として片づけられている。
■ハミルトンの断トツな速さとは違うボッタス車
またレーシングバトルの件は、レースダイレクターのマッシが「白熱したレース展開での押し出しは、フェアなレースならばペナルティは取らない、堂々と戦いなさい。ただし意図的な動きと判断されたら、その時々に応じて大きなペナルティを課する」として、自由レースの拡大解釈に対して釘をさした。つまりフェアならば激しいレースはウエルカムというスタンスにFIAが立ったのだ。
これを受けてカタールでは、ドライバー達が激しいバトルをフェアな形で展開、実に見応えのあるレースが現出した。ペレス、アロンソ、ノリスやサインツ等々、野に放たれた馬のごとく……とは今回のカタールを指しているのではないかと思えるほどに、彼らは躍動感あふれるレースをした。
結果的にカタールのレースでは、ハミルトンがブッチギリの速さを誇示したが、ボッタスはそうは行かず6番手からのスタートに手こずり、最終的にはタイヤのバーストもあって、レースをリタイア。そしてボッタスはここでハミルトンと自分のクルマは違うクルマと言い切っている、だから自分のクルマは遅いのだと言いたげに。
■ハミルトン車の動くフロントウィングは本当か?
それは本当だろうか? 今回ひとつ面白い現象が起っていた。ハミルトンは金曜日のP1、P2から最速を記録し、P3でも同様だった。しかしここでF1TVは執拗にメルセデスのフロントウィングを映すオンボードカメラの映像を流していた。そしてフラップ先端が間違いなく動いているように見えたのだ。その後P3の最後のタイムアタックで、ハミルトンは壊れてもいないフロントウィングアッセンブリーをノーズごと交換してアタック、そして変更前よりも0.4秒遅かった。変更したウィングのセッティングとタイヤの状況でのタイム落ち……ならばどうという問題ではないのだが……。
またレッドブルにも問題が生じていた。何かと注目を浴びているDRSフラップがオープン中に大きく振動していた。もちろんこれはパーツの故障で何のゲインもなく、むしろ乱流を招くことでスピードが落ちてしまうのだから、問題視されなかったが。無事修理は済み、レースにはソリッドに挑むことが出来たが、お騒がせな事件であった。
最後のもやもやはレースで起きたタイヤの怪だ。レース後半でボッタスの34ラップ走った左前のタイヤがバースト、トレッドエッジのショルダーとのジョイントで破壊が起こったのだ。この現象はラティフィー、ラッセル、ノリスそしてガスリーにも起こり、ガスリーの事故でVSC(バーチャルセーフティーカー)が導入され、これが異例に長く続き、最終ラップでレース再会となるも事実上のVSC下フィニッシュとなった。
これはガスリー車のデブリーフのためというよりも、まだ多くのマシンのタイヤが危険ウィンドウに入っていたので、FIAは安全のためとタイヤへの不安も含めてこの判断を下したのだろう。
レース自体は面白く観ることができたが、多くの疑問や謎がトワイライト・ゾーンの中で揺らめいていた。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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