■サイズゼロコンセプトにこだわり迷走してしまったホンダ
サイズゼロは理想のコンセプトだが、マクラーレン・エアロのためのサイズゼロを実現するにはICEの規定があり手が出せず、結果ターボユニット、MGU-H、MGU-K、エクゾースト・システム、冷却、インテーク、潤滑……補機類のほぼ全てにぎりぎりの負担を掛けねばならなかった。しかもそれらのデータが乏しく、ホンダは現状が精一杯で、開発の将来性を見誤っていたように思えた。
マクラーレンとの3年間、ホンダPUはもちろん変化・進歩はしたが、ホンダの上限がトップライバルのほぼ下限であったから、当然将来に向けての開発向上への期待感は薄れる。ホンダのF1現場における10年のブランク、F1プロジェクトに係わるスタッフのF1実戦経験不足、つまり世界規模の激闘を戦う経験不足が大きく影響したのではないだろうか。
結果マクラーレン情報が開発手段の第一となり、ジェネラルで大規模なF1ワールドのリサーチが不足し、データ収集・解析も進まず、これらが開発の足を引っ張っていたはずだ。無理やりのサイズゼロは、マクラーレン・エアロの劇的向上論を信じていたことによるものであったのだ。だから、最も重要なインテーク、冷却、潤滑もマクラーレンの要求に従っていたのだ。
第四期の出発はあまりにも現状のリサーチが不足していた。そして技術の問題ではなく、F1に対峙する断固たるプロジェクト哲学が不足していたように思えてならない。
それでも開発現場は広げることの出来ないコンセプトの中で、必死の努力を続け、3年目後期型ではかなりパフォーマンスを上げてきた。しかし遅きに失し、既にマクラーレンは次のステップに目を向け、ホンダを切り捨てたのだ。
■マクラーレンは成績不振の全てをホンダに押付けてルノー獲得に動いた
F1はロビーワークが必須だ。それは次のステップへ有利に物事を進めるための根回し・政治技術だ。2017年、マクラーレンはホンダの向上を望んでいなかったはずだ。なぜならば既にPUをルノーに変更することを念頭にこのシーズンを過ごしていたから……といったら言い過ぎだろうか。
ルノーを得るためにはアロンソという大きな武器があり、当時の状況ならマクラーレンの成績不振の全てをホンダに押付けても世間には通るはずだった。
鈴鹿というホンダにとって最も重要な舞台で、アロンソはレース中にあえて無線で「パワーがない、これではGP2だ!!」と叫んでいた。電気的な回生・出力制御の開発遅れで電気的出力不足が起因していたのは確かだが、それをあえて鈴鹿で叫んだのはマクラーレンがホンダとの契約解消の世間向けリファレンス、アロンソはマクラーレンのさらに先にルノーワークスを視野に入れての「台詞」であったといったら、これまた考え過ぎなのだろうか。
■F1最弱エンジンと呼ばれていたホンダと契約したのはトロロッソだった
ホンダはマクラーレンと袂を分かち、そのままF1撤退も考えられたが、このままで終るには忍びない……と考えたかどうかは知らないが、翌2018年からレッドブル傘下のトロロッソへの供給契約を結んだ。その裏に本体のレッドブルワークスへの供給を視野に入れて。
ここからホンダF1プロジェクトはマクラーレンとの3年間とは全く違う姿勢を打ち出してきた。第一にホンダのF1アタックメンバーの大幅変更だった。これまでは技術者の育成を謳い、新人や経験の少ないメンバーでやってきたが、ここではレースでのハードな経験者を多く集めてのホンダF1ワークスチーム作りが始まった。
初年度は「GP2」と叫ばれたエンジンのパフォーマンス開発ではなく、あらゆるパーツ、特にターボユニット、MGU-H、MGU-K、燃焼や動弁、ヘッド、エクゾースト……等々、全ての開発は徹底した信頼性確保を主軸に進められた。
この初期プロジェクトは功を奏し、第四期出発以来初めて強力な信頼性構築に成功した。
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