高市政権が自賠責からの借金約5741億円を一括返済へ――30年「宙づり」だった自動車ユーザーのお金と返却の影響

高市政権が自賠責からの借金約5741億円を一括返済へ――30年「宙づり」だった自動車ユーザーのお金と返却の影響

 クルマやバイクに乗る人なら、車検のたびに必ず払う「自賠責保険料」。その積み立てられたお金の一部が、国の一般会計に回されたまま30年近く未返還の状態が続いてきた。政府は2025年度補正予算案のなかで、この未返還分5741億円を一括で自動車安全特別会計へ戻す方針を決定し、国会審議にかけている。これは自動車ユーザーにとってどんな意味があるのか。日本でクルマに乗る人なら誰でも関係するニュースのはずだが、大手メディアではあまり話題になっていないので、自動車情報専門メディアとしてここで意義や事情を細かくお伝えしておきたい。

文:ベストカーWeb編集部、画像:総理官邸、ベストカーWeb編集部

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自賠責保険と「自動車安全特別会計」ってそもそも何?

 まず、今回の話の舞台となる「自賠責保険」と「自動車安全特別会計(自動車安全特会)」について整理しておこう。

 自賠責保険は、交通事故の被害者を最低限救済するための 対人賠償専用・強制加入の保険だ。任意保険とは別に、クルマやバイクを公道で走らせるなら必ず加入しなければならない。

 この自賠責保険料の一部や運用益、さらに車検・登録の手数料の一部などが積み立てられているのが「自動車安全特会」。ここからは、主に次のような事業にお金が出ている。

・ひき逃げ・無保険車による事故被害者の救済
・重度後遺障害者向け療護センターの運営
・介護・在宅支援など被害者支援事業
・ASV(先進安全自動車)など交通安全対策への支援

 ポイントは、このお金が税金ではなく、クルマ・バイクユーザーが払った保険料等を原資にした「共助の仕組み」 だということだ。だからこそ、「そのお金がどこに行き、どのように使われているのか」は、本来ユーザーがちゃんと知っておくべきテーマでもある。

平成の財政難で1.1兆円が一般会計へ――「数年で返す」はずが、長期の未返還に

 さてではこの自賠責保険料の積立金が、なぜ「借りパク」と呼ばれるような状態になっていたか。話は平成のバブル崩壊後、日本政府の財政が一気に苦しくなった時代にさかのぼる。

 当時の大蔵省(現・財務省)は、1994年度と1995年度にかけて、自賠責関連の特別会計から一般会計へ合計約1兆1200億円を繰り入れた。建前としては「一時的な財源措置」で、当初は数年で返済する想定だったとされる。その後、2003年度までに約6900億円(6921億円)が自動車側へ繰り戻されたものの、2004年度から2017年度までは繰り戻しが行われない状態が続いた。

 そもそもの原資はクルマ・バイクユーザーが支払った保険料やその運用益であるにもかかわらず、一般会計に多額の残高が残り続ける、一方で自賠責側では財源不足を理由に賦課金引き上げなどの議論が出る、といういびつな構図となり、メディアや関係者のあいだでは 「財務省が自動車ユーザーから借りパクしている」、「自賠責ネコババ問題」 といった表現で批判されるようになっていった。

2018年から返済再開も、「このペースでは80年」という声

 世論や被害者団体、自動車関連団体などの批判を受け、日本政府により2018年度から一般会計側から自動車安全特会への返済が再開された。直近では、

2023年度:当初予算60億円+補正13億円=73億円
2024年度:当初予算65億円+補正35億円=100億円

 と、返済額は少しずつ増えてきた。

 しかし、それでもなお 未返還分は5741億円規模とされており、このままのペースで返済を続けた場合、完済まで約80年かかるとする試算も示されてきた。

 その間も、ひき逃げ・無保険事故の被害者救済や療護センター運営などの事業は続けなければならない。財源不足を避けるためには、積立金の取り崩しや賦課金の上乗せなどでしのぐしかなく、「結局、そのツケはクルマユーザーの負担増という形で跳ね返ってきている」 と見る向きもあった。

次ページは : 高市内閣が方針転換――補正予算で未返還分5741億円を一括返済へ

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