■ルーキーレーシングとGRは切磋琢磨
なるほどと思いつつ、ひとつの疑問が湧いた。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を進めるのであれば、すでにガズー・レーシング・カンパニーがある。ガズー・レーシング・カンパニーではだめなのだろうか?
「当然、そう思われるかもしれません。GRはGRヤリスやGRカローラが成功して勢いが出てきました。そのいっぽうでかつてマイノリティだったGRにあった、ハングリーさを持つ人材ばかりではないようです。
カンパニーが大きくなるにつれ、『GRは勝ち馬だからそれに乗ろう』といった人たちが増えてきているように思います。だから、GRはルーキーレーシングというマイノリティだけどクルマづくりに正直な連中と仕事をすることで、切磋琢磨していく関係になればいいと思います」
モータースポーツの現場ではGRとルーキーレーシングの人材が一緒になって活動している。その効果について高橋智也ガズー・レーシング・カンパニー・プレジデントは、
「これまではトヨタの決められた仕事をやっていればよかったという感じでしたが、一緒に仕事をやるようになってからは、進んで仕事をするというか、自分で考えて仕事をやるようになったと思います。モリゾウさんがすべてを話さず、現場に考えさせているということも大きいと思います」と率直に語っている。
話を聞きながら、モリゾウさんはスタートアップのリーダーになっているのかもしれないと思い始めた。さらに言うなら自身も挑戦し続けるという意味では、豊田喜一郎がトヨタ自動車工業を作り、自動車づくりを始めた創業時になぞらえているのかもしれない。
「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりを目指すなかでモリゾウとルーキーレーシングとガズーとでいい方程式が生まれてくるといいと思います。
これはモリゾウが作る方程式ではなく、みんなが協力して生まれるものです。あえて言うならばひとり1台のクルマをつくることです。トヨタは自動車メーカーですから、いくら方程式ができても、生まれてくる商品でしか答えにならないのです」
モリゾウさんが話してくれたことは、従来のトヨタではできない、そしてモリゾウさんにしかできない新しい価値を持つクルマづくりへの挑戦といえるだろう。
トヨタがハースF1チームと技術提携することが発表されたが、これも商品と人材育成につながるからであり、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりが、一気に加速していきそうだ。
【画像ギャラリー】モリゾウは常に挑戦者!! モリゾウと共に……そしてその後も走り続けるルーキーレーシング(8枚)画像ギャラリー【番外コラム】モリゾウさんがオーナーを務める「ルーキーレーシング」
もともとはレーシングドライバーの片岡龍也氏がジェントルマンや若手ドライバーの育成を目的に立ち上げたT’sコンセプトというチームが母体。
2018年豊田大輔氏が将来のマスタードライバーを目指し、修業のために参加することになり、小倉クラッチをスポンサーに迎え、チーム名もT’sコンセプト小倉クラッチとなった。
チームを見に来たモリゾウさんも意気投合し2019年「ROOKIE Racing」と改名し、2020年シーズンにGR86とGRスープラの2台でスーパー耐久シリーズに参戦し、本格始動した。
モリゾウさんはトヨタ自動車の社長ではなく、プライベートチームのオーナー兼ドライバーとして現場に立つことで、日本のレース業界の課題を見ることになった。
チームスタッフの職場環境やメカニックやエンジニアの重要性、さらにはスポンサーなどの問題である。モリゾウさんはチームのために私財を投げうち、ガレージやチーム体制を強化。
さらにモータースポーツ活動を持続可能なものにすべく、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と「世界で戦えるクルマ屋集団を作る」という2つのビジョンを掲げ、スーパー耐久、スーパーGT、スーパーフォーミュラ、そしてラリーでの挑戦を続けている。
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コメント
コメントの使い方これとかオートサロンとか章男氏の本音語りを聴くたびに、本当に凄いなと衝撃を受けます。インタビューと掲載をありがとうございます。
GRに既に勝ち馬に乗る輩が居るから、自ら1から立ち上げたGRに対抗できる場所を作るとか、こんな人が会長なトヨタは僥倖すぎる。
そして彼がいなくなった時の怖さを、本人が自覚して対応策を築いていってる。なんという。間違いなく日本の偉人として将来に名が残る