ワンプラットフォームで高効率化
だが、それだけで収益性を確保できているわけではない。クルマの生産や販売のコストが低いというのも、スバルの大きな特徴だ。
前述のようにスバルは自動車メーカーとしては小規模。大量生産による薄利多売で利益を上げることは本来難しい。
が、スバルはそれを発想の転換で乗り越えてきた。それは、クロスオーバーモデルの「アウトバック」や北米向けの大型SUV「アセント」などの大きなクルマから「インプレッサ」「XV」などの小さなクルマまでを1つのプラットフォームで作るということだ。
もちろんモデルの大小で使われる部品はまったく異なるのだが、クルマの骨格となる基盤技術は共有だ。
こういうクルマ作りは、実はスバルの伝統芸。最初にその方針を出したのは、1990年代にスバルを経営危機から救い、WRC(世界ラリー選手権)もやめず、後に3年連続優勝の偉業達成につなげた日産出身の川合勇元社長だった。
困窮していたスバルが「インプレッサ」を開発していたとき、上級モデルの「レガシィ」と同じ部品で作れば、部品は高くても開発の効率化と量産効果で結局はトクをするという逆転の発想によるものだった。
その戦略は大当たりし、以降、スバルのクルマ作りはワンプラットフォームがデファクト・スタンダードになった。
スバルの利益率は高級スポーツカーのポルシェなどと比肩するほどの高さだが、その収益基盤の強さはスバルのクルマづくりの手法と無縁ではない。
米国市場での強さ
そして、他社にはないもうひとつは米国市場での強さ。スバルはもともと米国を収益基盤にしていたが、当初はあくまで“知る人ぞ知る”という少数派であった。
2000年代後半にディーラーチェンジしたのをきっかけに、悪路や雪道に強く、耐久性が高いという特質が米国のユーザーに浸透しはじめ、売り上げがぐんぐん伸びた。
スバルが50万台規模から100万大規模へと、零細ながら倍増したのは、ほぼすべて米国での販売増が要因。
しかも、米国市場が減速しているなか、スバルの販売は落ち込んでいない。それは「スバル車の希望小売価格は安いが、平均実売単価は高いので儲かるのも道理」(ライバルの米国担当幹部)という状況だ。
大きく体勢を崩しながらも、急速に復調しつつあるスバル。だが、これからもこの調子で成長を続けられるかどうかは予断を許さない。スバルの業績のよさはひとえに米国の一本足打法に頼ったもので、ここが崩れたら一気に経営危機に陥る可能性をはらんでいるからだ。
好調だが安泰ではない
それ以上に大きなリスクは、スバルがこの先、どこまでブランドの独自性を維持できるかという不透明性だ。トヨタがスバルへの追加増資を発表した際、中村知美社長は「これからもスバルらしさを磨く」と決意を述べている。
が、近年はスバルらしさが米国受けするスバルへとすり変わっているのは否めない。本当のスバルらしさが何かということを見失わないでいられるかどうかも課題である。
「100年に1度の大変革」を迎えて、スバルのような小さい企業にとって悩みのタネである先端技術分野については、トヨタという強力なパートナーシップを得ているのは心強いところだが、それで安心していると危ない。スバルが有効な見返りをトヨタに提供できなければ、トヨタの態度が豹変してもおかしくないからだ。
これまで強いブランドイメージと手堅いモノづくりで高収益体質を築いていたスバルだが、それを確かなものにするには品質管理の問題を取り上げても今の延長線だけでは危うさもある。
スモールメーカーの中でも「好敵手」とみられるマツダを例に上げれば、米国新工場建設やモノづくり革新の推進などの積極投資で利益率は低いものの、「走る歓び」と環境対応の新エンジン「スカイアクティブ」や魂動デザインのような独創的な商品開発戦略はユーザーにとっても選択肢が広がる。
マツダのように背水の陣で挑んだ”身の丈に合った”ブランド戦略を明確に打てるかどうかが、スバルの将来の命運を分けることになるだろう。
コメント
コメントの使い方