2035年に欧州でEV化が義務化されるという話が出て、一気に加速した自動車の電動化。その変革においては、マルチシリンダーの官能的な音と高い運動性能で、多くのファンを魅了するスーパーカーも例外ではなかった。ここではシボレー コルベットE-RAYとマクラーレン アルトゥーラを、松田秀士氏と大音安弘氏がインプレッションしていくぞ!!
※本稿は2025年2月のものです
文:松田秀士、大音安弘、ベストカー編集部/写真:奥隅圭之、ベストカー編集部 ほか/予想CG:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2025年3月10日号
内燃機関の感動は必須だ……松田秀士
この2台の特徴と違いは、アルトゥーラが外部充電可能なPHEVなのに対して、E-RAYは外部充電不可なHVだ。
E-RAYは前輪をモーター(162ps/16.8kgm)で後輪をエンジン(6.2L・V8、502ps/65.0kgm)で駆動するe-4WD。このシステムは1.9kWhのリチウムイオン電池で前輪を駆動する。システム出力は664ps。
対するアルトゥーラは後輪駆動。エンジン(3Lツインターボ、585ps/59.7kgm)の後ろに搭載されたモーター(95ps/22.9kgm)を7.4kWhのリチウムイオン電池で駆動する。システム出力は680ps。モーターのみで約30kmの走行が可能。
とまぁ、スペックを主体に説明してみたが、乗って比べてみると面白いことがわかるのは全開加速。E-RAYは爆音とともにフロントを持ち上げ獲物を追うライオンか? という強烈な加速。0-96km/h加速は2.5秒! マグネライドダンパーのストロークが大きく、音と動きでシートに背中が押し付けられる。
アルトゥーラは、E-RAYに比べてノーズの持ち上がりは抑えられ、全身で加速する豹のよう。ツインターボのくせにスムーズに感じるのはモーターアシストのせいで、実際はエンジンのみでかなり速いのに、中回転域までモーターが協調駆動するのでE-RAYほどの凄みはないが0-100km/h加速は2.9秒。
車重はE-RAYが1810kgに対して、アルトゥーラは1395kg。実に300kgも重いのに、E-RAYの加速性能はスゴイの一言。実はE-RAYのフロントモーターは回生も行い、それは減速だけでなくエンジン走行時も発電して充電する。ちょっと不思議なHVだがよく考えられている。
電動化という意味で比較すると、アルトゥーラはエンジン直結のモーター駆動ゆえに、進んでいると言える。
個人的にはこの手のスーパースポーツがポルシェ タイカンのようにEV化することは嬉しくない。やはり内燃機関がもたらす生き物のようなアナログ的感動抜きにスーパースポーツはありえない。それでも環境性能を併せ持つPHEVが正解なのだろう。
【画像ギャラリー】とめられない電動化なら楽しめる感性を養いたい……米&英&伊のスーパーEVとEV化が予定される国産スーパースポーツ(28枚)画像ギャラリー両メーカーの奮闘を感じる……大音安弘
より厳格となる環境規制を前に、スーパーカーも電動化が急務。ただ最新事情では、高性能BEVのスケジュールに乱れが生じているものの、主力モデルのハイブリッド化には熱心だ。
その代表例というべき、マクラーレン アルトゥーラとシボレー コルベットE-RAYに試乗した。彼らは一言に電動化といっても、さまざまなアプローチがあることを教えてくれた。
アルトゥーラは、後輪駆動のミドシップスポーツで、3L・V6・DOHCエンジンにモーター内蔵の8速DCTを組み合わせる。
そのため、エンジンとモーターの切り離しが可能で、電池残量があると、EVモードが基本。95ps/22.9kgmのモーターだけで130km/hまで加速する。そして、33kmのEV航続距離を備え、外部充電に対応する。短距離移動ではEVなのだ。
一方、E-RAYは、ミドに収めた自慢の6.2L・V8・OHVエンジンはそのままに、フロントアクスルにモーターをぶち込み、e-4WDに仕立てた。
ただし、162ps/16.8kgmのモーターのみ走行できるのは、ステルスモードのみ。72km/hまで加速するが、エアコンが使用できない。しかもバッテリー容量も小さいので、航続距離は5kmほどに留まる。さらに充電できるのは、走行中だけだ。
この電動化の考えは、両者のキャラクターにも反映される。
電動化の正攻法を取るアルトゥーラは、電動化がジキルとハイドのような二面性を与えた。顧客がスーパーカーに乗ることを咎められぬように気遣い、環境負荷低減にも、より前向きに映る演出は見事。もちろん、乗り手次第でモンスターに化ける。
特筆すべきは、ペダルフィールの悪化を恐れ、あえて回生ブレーキを非採用としたことだ。
対するE-RAYは、相変わらずの走り屋っぷり。電動化をシリーズ初の4WD化に活用した点は興味深い。その背景には、ライバル911の存在もあるのだろう。実際に乗り味も、よりGTさが増している。
2台を通じて強く感じたのは、重量増などのネガを生む電動化を新たな刺激に変えようと奮闘した作り手の想いだ。そう、スーパーカーの電動化は、知れば知るほど奥深く面白いのだ。
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