たくさん売れたわけじゃないが何年経っても覚えている、印象的だったクルマを回顧するこの企画。今回は「イタリア車のデザインを目指した」トヨタ ヴェロッサを取り上げる。カッコイイ!! でも何かが足りなかったのかも!?
※本稿は2025年3月のものです
文:小沢コージ/写真:望月浩彦
初出:『ベストカー』2025年4月10日号
日本人にイタリア車は作れるか?
考えてみると、これは壮大なる社会実験だったのかもしれない。それは2000年生まれの最後のトヨタマークIIこと9代目110系マークIIの姉妹車であるヴェロッサだ。
実験名はいわば、「もしも日本人がイタリアンセダンを作ってみたら」だ。
表向きは既存のチェイサー&クレスタ代わりになる、ビスタ店系列で売られるマークIIのガワ違い高級版。しかし、それはどう見てもセクシーフォルムのトヨタが作ったアルファロメオであり、事実当時の担当デザイナーもそう証言する。
リリースを見ると、開発テーマはエモーショナルセダンで、ほかにもエモーショナルな比喩連発。主な特徴は「塊から削り出した彫刻のような造形」など。さらに車名のヴェロッサはイタリア語のVero(真実)とRosso(赤)の造語。どう考えてもマークIIベースにトヨタが作ったイタリアンセダンなワケよ。
というか日本人デザイナーにとってもイタリア車は憧れであり、大抵はフェラーリやアルファロメオを崇めて成長してきた。そんなアジア人がいつかはイタリアンデザインを作ってみたいと考えるのは自然。
西海岸の寿司レストランでカリフォルニアロールが生まれたように、日本でヴェロッサが生まれるのは当たり前。しかも国内専用車なだけに自由度は高い。
実際ライトやグリル類の一つひとつの彫刻的フォルムもさることながら、フロントマスクのつぶらな瞳と盾のようなグリルはアルファ156に通じる。あるいはもっと大人っぽいランチア テージスに近い。
加えて猛獣の牙をモチーフにしたエンブレムや、丸形フォグランプやフロントバンパー下の開口部、うねったサイドスカートやリアのマッチョな造形は独特ワイルド。ただし、どこか本物のアルファに比べるとイキ切ってないのよね。
自慢のヴェロッサ専用チューンが施された直6サウンドは軽快だが、音量デカめのアルファに正直負けてるし、マフラーエンドもなぜか隠れてる。
インテリアもスポーティな3連メーターやシルバー加飾が施されたシフトパネルやドア内張りはオシャレだけど本物のアルファに比べるとどこか地味。
トヨタ製の「壊れないイタ車」
でもそれもデビューから20年以上経ち、改めて見ると壊れないイタリア車として非常に得難い存在だ。
今やアルファ156や159の上物は300万円前後するし、安いイタリア車はどう考えても不安。かたや中身ラストマークIIのヴェロッサは安心して買えて、バリエーションも豊富。
エンジンはすべて可変バルタイ付きの直6DOHCで、今回借りた160psの2Lをベースに、200psの2.5L直噴、280psの2.5Lターボが選べ、どれもパワーフィール上々。特に後者はパワフルなFRとして楽しいが、正直中古だと普通に200万〜300万円を超え、激しいドリ車チューンも当たり前。
それはそれで楽しいが、今回借りた2Lの「20」や2.5Lの「25」は、正直あまり速くはないけど、壊れもヤレも少なく、インテリアキレイめでオマケに激安。今回レア車の殿堂ユーセレクションで借りた20にしろ初期物、距離4.9万kmでなんと65万円+α。
ステアフィールはマークII独特のユルさ付きだけど、走りはビビッドで超楽しく癒やされる。この味、今のクルマじゃ味わえませんて!
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