【高齢者ドライバーの限定免許制度改正間近】進まない免許返納の問題点と打開策

地方の免許返納はやはり進まない?

全体の免許返納率は2年連続で40万人を超えたが大きな伸びではない(出典:警察庁「2018年、運転免許統計」)<br>
全体の免許返納率は2年連続で40万人を超えたが大きな伸びではない(出典:警察庁「2018年、運転免許統計」)

 免許の自主返納は浸透してきており、2008年に2.9万人だったのが、2018年には全国で42.1万人と2年連続で40万人を超えた。

 年齢別の返納率をみると、とくに75歳以上で上昇している。2017年の認知機能検査の厳格化の効果もあったと思われる。しかし、75歳以上で返納率が上昇しているとはいっても5.18%にとどまっている。

 また、都道府県別の75歳以上返納率には2.16倍もの差があり、最高が東京都の7.97%、最低が茨城県の3.69%となっている。

※75歳以上の免許返納率は、各都道府県の75歳以上の免許保有者(第一種、第二種含む)に対する、75歳以上の免許返納者(申請免許取り消し者)の割合。

 都道府県別の1人当たり乗用車台数が多い都道府県(東京都は0.23台で最低、茨城県は0.68台で2番目に多い)ほど、返納率が低い傾向があることを考慮に入れると、日々の生活におけるクルマの利用状況が地域によって異なることが、返納率の地域差の一因となっていることが伺える。

高齢者ドライバーの免許返納が進まない根本的原因

自主返納制度は平成10年4月から施行
自主返納制度は平成10年4月から施行

 高齢者ドライバーによる免許の返納がなぜ進まないのか。これにはいくつかの原因が考えられる。

 やはり、電車や地下鉄、バス、タクシーなど公共交通機関が充実している首都圏と比べると、地方ではクルマが手放せない。

 自分のクルマがなくなると、一気に生活のアシを失うことになるからだ。家族のクルマやクルマを所有している隣近所の友人、知人に頼んで、出かけるにしても気がひける。

 そして、「クルマを運転できる」という権利を失う恐れ、これまでの人生で培ってきた運転に対する自信を喪失することへの抵抗感が大きいだろう。

 自主返納を行ってしまうと身分証明を失ってしまうという懸念もあるが、この問題に関しては運転経歴証明書があるため、問題はない。

運転免許を返納し、運転経歴証明書を受け取るには、本人申請の場合、運転免許証、手数料1100円、申請用写真が必要。代理人申請の場合、委任状、代理人の住所、氏名、生年月日が確認できるもの、手数料1100円、申請用写真。  運転経歴証明書の受け取りは申請した場所において交付(受取)まで2週間程度もかかる。(島部警察署では4週間程度)
運転免許を返納し、運転経歴証明書を受け取るには、本人申請の場合、運転免許証、手数料1100円、申請用写真が必要。代理人申請の場合、委任状、代理人の住所、氏名、生年月日が確認できるもの、手数料1100円、申請用写真。 運転経歴証明書の受け取りは申請した場所において交付(受取)まで2週間程度もかかる。(島部警察署では4週間程度)

 運転免許に限らず、人は一度手に入れた権利は、手放したくないものだ。しかもクルマの運転ができなくなるということは、公共機関を含め、誰かの手に頼らないと移動することが困難になってしまう。

 これは移動の自由を奪われてしまうことになるから、生活にも困るケースが出てくる可能性もある。

 そして自分の衰えを認めたくない気持ちや、その先の人生に対する不安があれば、なおさら返納したくはないだろう。

 もちろん高齢者ならではの判断能力の衰えから、自分の能力を過信してしまうこともある。

 前述の運転に対する自信もそうしたもので、長年無事故無違反を続けていれば、自分の運転に自信を持つが、身体能力や判断力が鈍っていることは自分では気付きにくいし、認めたくない。

 そのため家族が免許を返納させるための説得に苦労している、という話は方々で聞くほど珍しくないものだ。

 もし家族に免許を返納させようとして苦労しているのであれば、免許返納を迫るのではなく、しばらくクルマの運転を止めてみるのを提案してみるのはどうだろう。

 現在のクルマがサポカーではないクルマならば、先にクルマを処分してしまうということも考えるべきだろう。クルマが本当に必要ならまた手に入れればいいのだから、サポカーに乗り換えるための準備として先に手放してみるのだ。

 免許は返納してしまうと再び取得するのはかなり難しいから当人は抵抗するだろうが、免許を保持したままクルマを買い替えるために一度手放す、というのであれば同意してくれるのではないだろうか。

 そしてクルマがない生活に慣れたところで免許を返納する説得を開始すればいいのだ。もっともクルマがなければ運転できないのだから、そのまま免許を保持していても交通事故などを起こす危険はほとんど解消できる。

 しかし、こうして免許を返納させたり、クルマを手放させるためには、運転経歴証明書以外に、代替え手段を用意する必要がある。

 公共の交通機関だけで十分な場合もあるだろうが、都市部でもバス停さえも遠い高齢者は足が弱ったら家族がサポートするなど費用や手間などの負担が必要になるケースもある。そうした努力なくして高齢者から運転免許を取り上げることはできないのだ。

 免許を取り上げられても移動する必要性から、これまでの習慣によりつい運転してしまうケースも考えられる(現在も実際に起こっている)。

 免許を返納、あるいは取り消された高齢者ドライバーが、クルマを運転できる環境ではないことを家族や免許返納を受け付けた免許センターなどが確認する仕組みも必要だろう。

次ページは : クルマ、道路環境、免許制度の三位一体で考えるべき

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