レクサスが目指す方向と身に付けるべき価値 業績過去最高も課題は山積

■改善されたレクサスの販売と接客 しかし課題は残る

 北米など海外の日本車は、ガソリン価格が急騰したオイルショック期に、「低燃費で価格も安く、壊れにくい実用車」として普及した。しかし日本におけるトヨタ車は、1955年に発売されたクラウンから実質的に始まっている。

 海外でトヨタが高級車を売るには、レクサスという新たなブランドが必要だったが、日本ではトヨタこそがもともと崇高なブランドだ。新型クラウンが登場すると、内容も確かめずに購入するユーザーも多い。トヨタというメーカーとクラウンという商品、トヨタ店とセールスマンに、絶大な信頼を置いているからだ。日本におけるトヨタのブランド力は、メルセデスベンツやBMWを大幅に上まわる。

 このように、日本で不要だったレクサスを2005年になって開業した背景には、ふたつの理由があった。ひとつ目はメルセデスベンツやBMWの国内販売が増え始め、トヨタの高級セダンのシェアを浸食し始めたことだ。

 1990年代中盤になると、トヨタは国内でミニバンを活発に発売して、セダンの魅力と売れ行きは相対的に下がった。その結果、高級セダンの価値を確立させていたドイツ勢に、入り込む余地を与えてしまった。レクサスは欧州ブランドからトヨタ車の販売を守るべく、国内で開業している。

2019年の販売台数は1049台、月平均87台だったレクサス「GS」。ベンツ「Cクラス」、BMW「3シリーズ」は月平均500台以上を販売しており、「ES」以外のモデルは苦戦が続く

 ふたつ目の理由は、トヨタ自身が、日本におけるトヨタのブランド力を理解できていなかったことだ。少なくともレクサス開業当初のディーラーで見られた慇懃無礼(いんぎんぶれい)な顧客対応は、それまでトヨタが築いてきた日本向けの優れた接客を否定するものであった。2005年当時、レクサスに配属されたトヨタのセールスマンはベテランぞろいであったが、無理のある接客を強要されていた。

 当時のレクサスはこのような具合で、車種もセダンが中心だったから売れ行きは伸び悩んだ。2008~2010年頃の国内販売は、リーマンショック後の景気低迷もあり、1年間に2万5000台から3万台であった。

 この後、国内のレクサスは車種を充実させていく。2009年には日本向けに開発された車内の広いミドルサイズハイブリッドセダンの「HS」、2011年には同じくハイブリッドを搭載する運転しやすい5ドアハッチバックの「CT」、2014年にはミドルサイズSUVの「NX」などをそろえ、2015年のレクサス国内販売は4万8000台に増えた。

左から「LC」「LS」「LX」。この3台をフラッグシップに据え、幅広いラインナップを取りそろえる現在のレクサス。統一デザインの「スピンドルグリル」も熟成が進み、消費者に受け入れられるようになったのも大きい

 2018年には5万5000台に達してESとUXも加わり、2019年には前述の6万2394台に達している。近年はSUVが流行しており、レクサスもサイズに応じて複数のSUVをそろえ、売れ行きを伸ばした。

 レクサスの国内販売推移を見る限り順調といえるが、国内開業の目的とされた欧州ブランドの浸食には、今でも歯止めが掛かっていない。2019年にメルセデスベンツは日本国内で6万6553台を販売して、レクサスブランドの国内販売台数を上まわった。BMWも4万6814台だから、レクサスを下まわるものの、手ごわい競争相手だ。

 2019年に国内で最も多く登録されたレクサス車は、UXで1万6395台であったが、メルセデスベンツCクラスは1万7210台となる。メルセデスベンツの車種数は、レクサスの2倍に相当するから、登録台数を増やしやすい事情もあるが、日本でレクサスが成功したとはいえない。ブランド力でも、メルセデスベンツはともかく、トヨタにはまだまだ太刀打ちできていない。

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