コミュ力は日本人に負けない!?
今回5名の外国人(ネパール3名、ミャンマー1名、ベトナム1名)にインタビューした。神奈川トヨタでは、そのほか中国21名、スリランカ18名、バングラデシュ15名など、計17カ国195名が活躍している。
共通して苦労しているのがやはり日本語。地元で1年、日本に来て2年間日本語学校で学ぶパターンが多い。日常会話には困らないものの、それだけでは仕事をこなすには不足するところがある。
自動車専門用語、とりわけ試験に出るのは、法令用語である。たとえばエンジンのことを原動機と漢字で目にすると日本人でも面食らう。基準値という言葉も、理解しづらい用語のようだ。
検査員の資格を持つネパールのクリスナさんは、トヨタ1級の筆記試験に挑戦する際、19〜20時の帰宅後と出社前の朝の数時間を勉強に充てたという。
言葉は言うまでもなく、コミュ力の源泉であり、仕事をスムーズに運行するための正確に意思を伝える道具だ。
「入社した頃は、周りの日本人から僕の言葉が聞き取りにくいとよく言われたものです。でも今は少し大きな声を出すように心がけている。それと先輩から言われたことはすぐメモをして、もれなく解決するように励んでいるね」(ネパールのミランさん)
漢字を書くことを苦手にしている外国人はめずらしくない。“お客様のご用命”を受注カルテに記入する時、どうしても漢字を使う必要がある。同音異義語なども少なくないので、日々勉強だ。でもわからない時は、素直に先輩の日本人に聞けば親切に答えが返ってくる。
先のピョーさんも、漢字を書くのが苦手。日本語のブラッシュアップのため、日本のTVドラマ、YouTubeなどで人気のアニメを字幕付きで見ている。それもあってか、ハードな故障診断技術をこなせる。
「トヨタ86のお客様からダッシュボードからの異音の苦情」。そのクルマで症状を体感しようと道路に出て走らせると、確かに路面の段差を越える時にダッシュボードから異音が発生。リフティングして下回りを探ると、どうもステアリングのギアボックスにガタが出ていたという。
日本と日本文化を知ってもらう努力
神奈川トヨタの外国人整備士の技能向上と定着作戦は、相当うまくいっている感じ。その背景を企業側からも探った。
「2018年ごろから外国人整備士を受け入れ始めていたが、当初は受け入れ人数のわりには途中でやめていく外国人が多かった。2018年が7名採用で4名辞めていった。2022年時点でも33名入社で10名が辞めていった。最初からうまくいっていたわけではなかったのです」と人事開発部の原田丈晴さん。
せっかく採用した整備士が途中でやめていっては、互いにハッピーじゃない。そこで、その原因をとことん探った。最大の原因はコミュニケーションの欠如だった。
原田さんは品川や川崎にある出入国在留管理庁に足を運んだ。そして外国人雇用労務士の資格を取得することで、より深く外国人を雇用するノウハウを得る一方、外国人の気持ちを知る努力もいとわなかった。こうして全社挙げての“外国人整備士の技能向上と定着大作戦”を展開したのだ。
担当者に聞くと三つの柱に集約できる。
一つは、社内のコミュニケーション不足を手当てする作戦として、外部に頼らずに社内のスタッフに日本語教師の資格を取得させ、日本語教育を徹底させた。
通り一遍の日本語教育ではクルマ整備の実践力に結び付かない。例えば12カ月点検や車検時に必要なだけでなく、点検整備するたびに記入が義務付けられているメンテナンスノート(定期点検記録簿)には漢字やカタカナが頻繁に出てくる。これを4月から12月の9カ月かけて学ぶ。
同時に生活やマナーの違い、日本の文化を学ぶ時間もある。課外授業として、田植えや稲刈り、レースの見学、板金工場の見学、ドライビングレッスンなどだ。楽しませながら学ぶ世界も取り入れている。
二つ目に、座学などで学んだことを実践で活かせるかを試す店舗研修が効果を上げている。
一店舗に一週間整備士として張り付かせ、同僚の整備士と一緒に仕事をするOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)。ただ実践するだけではなく、能力チャート表で自分の不得意分野がひと目でわかり、努力目標を“見える化”している。
三つ目のポイントは、在留資格を最大5年更新できる仕組み作りを構築したこと。
いわゆる外国人は「技術・人文知識・国際業務」を得ることで安心して長く働くことができる。研修と社内試験という新たなハードルをあえてひとつ設けた。将来を見据えた一人ひとりのキャリアプランを作成することで、安心して日本で暮らせる。
月に2回、孤独になりがちな奥様を招待し、日本語教室を開き、交流の場を実現。こうした積極的な試みが実を結び、周りの日本人の外国人への理解が深まり、好循環を生んでいったという。
2023年は29名入社で、辞めたのはわずか2名。2025年は、81名入社で、辞めたのは7月末現在、ゼロという厳然たる数字がそれをリアルに表している。
今回の取材で何よりも驚いたのは、一様に共通した彼らの目の輝き。それは、お店の雰囲気の明るさに貢献し、周りの日本人を大いに刺激しているはず。
外国人を日本社会に積極的に取り込んだ新しい社会づくりがすでに始まっている。日本人のココロの開国が急務。
闇雲に無関心であったり反発心を抱いたりするのは思慮不足からくるもの。読者のみんなも、まず外国人整備士のひとりと気軽に声を掛け合うことから始めてはどうだろうか? クルマをテーマにしたら、話題は尽きない。
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●広田民郎……自動車のメカ、整備業界に詳しいジャーナリスト。新著「自動車整備士になるには」〈ぺりかん社〉好評発売中



コメント
コメントの使い方外国人よりも先に日本の技術者を大事にしてください。
短期間での完成の要求、割に合わない給料、遅くまでの残業、これではみんな辞めていきます。おまけに周りは意思の疎通の難しい外国人ばかりでは
それよりも安い労力を結果として求めているのでしょう?そうですよね?
なんでも外国ばかりに頼っていると日本は気が付けば何もできない国になっていきますよ
若者ばかりに注目してますが、早期に中高年を引退させているから不足していると思われるのではないのですか?
技術者達は、一生涯、担い続けてくれれば、人口に合わせて特に不足ではないと思います。
この考え方少し取り入れてください。