クルマが教えてくれる情報に耳を傾けるべし!
その理由は、クルマから発せられる様々な情報を、無意識のうちに総合的に拾っているからだろう。タイヤの回転に伴う微細な振動、ステアリングに伝わるインフォメーション、トレッドパターンノイズの変化、横風に対する安定性のわずかな差、風切り音、路面の流れ。
それらすべてが今の速度を語っている。だから私は、基本的に車内で大音量の音楽を聴くことはない。
仮に音楽を流していても、クルマが発する情報を遮断しない範囲に留めている。耳、手、足、腰、身体全体でクルマの状態を感じ取り、ときどき速度計で答え合わせをする。それを繰り返すことで速度感覚は次第に研ぎ澄まされていく。
100km/hで巡航していれば、多くのクルマでエンジン回転数は2000〜3000rpm前後だろう。その回転数に固有の振動や音も重要な情報源だ。
こうした感覚は一朝一夕で身につくものではない。運転時間、走行距離、つまり経験値がものを言う世界である。
速度感覚を養えば、「基準」ができあがる
かつて自動車メーカーで開発テストに携わっていたころ、テストコースを走行中、速度計が180km/hを示していたことがある。しかし私の感覚では、どうしても160km/h程度にしか感じられなかった。速度計が狂っていないかと同乗していたエンジニアに尋ねたほどだ。
理由は、本当に180km/hなら驚異的な安定性だった。NVHが極端に低く、振動も風切り音も抑え込まれていて、とても180km/hとは思えなかった。当日はメーターに狂いはないと伝達されたが、後日、別のエンジニアから速度計は意図的に20km/h狂わせていたと聞かされた。
プロレーサーの速度感覚は誤魔化せない、と悟られたそうだ。
当時、私はE38型BMW 7シリーズを愛車としていた。高速域での直進安定性、快適性、静粛性。その完成度の高さを日常的に体験していたからこそテストカーの挙動に違和感を覚えたのだ。車格を考えれば、7シリーズを超える快適性などあり得ない。だからこそ、数字と感覚の不一致に気づけた。
【画像ギャラリー】快適性、静粛性、そして直進安定性…… E38型BMW 7シリーズはプロドライバーが唸るほどの完成度だった!(12枚)画像ギャラリー「良いクルマ」に乗るということ
ここで重要なのは、普段「どんなクルマに乗っているか」だ。高速走行時にノイズや振動が多く、外乱に翻弄されるようなクルマでは、速度変化を正確に感じ取ることは難しい。そうしたクルマに長く乗り続けても、速度感覚はなかなか養われない。
価値あるクルマとは、速いクルマではない。速度の変化や安定性、あらゆる情報を正確に、かつ不快感なくドライバーに伝えてくれるクルマだ。最高の答えを知るからこそ、そうでないものの弱点が明確になる。
車速を一定に保つコツは、結局のところドライバー自身の感覚に尽きる。上り坂で20km、30kmと速度が落ちても、それに気づかないドライバーは少なくない。
本人は100km/hで走っているつもりでも、実際には大きく速度が落ちている。それは感覚が鈍っているというより、クルマが正しい情報を伝えていないという側面もある。
良いクルマに乗り、長い時間を共に過ごし、あらゆる速度域を体験する。それが結果として、電子制御に頼らずとも自然に一定の速度を保てるドライバーを育てるのだ。
【画像ギャラリー】快適性、静粛性、そして直進安定性…… E38型BMW 7シリーズはプロドライバーが唸るほどの完成度だった!(12枚)画像ギャラリー














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