1997年に登場したいすゞ ビークロスは、SUVの常識を打ち破った異端の存在である。未来的すぎるデザインと本格4WD性能を併せ持ちながら、販売面では苦戦。しかしその思想と個性は、現代のクーペSUVにも通じる先進性を持っていた。時代に理解されなかった“早すぎたSUV”の真価をいま改めて紹介しておきたい。
文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部
コンセプトそのまま!? 異形すぎたデザインの衝撃
ビークロス最大の特徴は、そのあまりにも個性的なスタイリングにある。1993年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカーを、ほぼそのまま市販化したという異例の成り立ちを持つ。
丸みを帯びた独特のボディラインに、下半身をぐるりと覆う無塗装樹脂パネル、そしてスペアタイヤを内蔵したリアゲート。どこを切り取っても当時のSUVとは一線を画す造形であり、まさに“未来から来たクルマ”のような存在感であった。
現代ではクーペSUVやデザイン重視のSUVは珍しくないが、その原点とも言える思想をすでに体現していたのがビークロスである。
しかもその造形は単なる見せかけではなく、実際の量産モデルとして成立させるために、鋼板と樹脂パネルを組み合わせた複雑な構造を採用。生産も手作業を多く取り入れるなど、非常に手間のかかるクルマであった。
チーフデザイナーを務めたのは、のちに日産自動車のデザイン本部長となる中村史郎氏である。ビークロスは単なる見た目重視のショーカーではなく、乗り心地を含めた高速走行性と悪路走破性を高次元で融合させることを狙った意欲作だった。
開発初期のコンセプト段階では、ジェミニのプラットフォームをベースとしたクロスオーバーSUVとして構想されていた点も興味深い。
つまりビークロスは、「デザイン」と「走り」の両立を本気で目指したプロダクトだったのである。
走りも本格派だが……売れなかった理由は明確
ビークロスは見た目だけのクルマではない。ベースには本格クロカンSUVであるビッグホーンのシャシーを採用し、電子制御4WDシステムや専用チューニングの足まわりを組み合わせることで、高い走破性と安定性を実現していた。
「全天候型スポーツカー」というコンセプトの通り、オンロードではスポーティな走りを楽しめ、オフロードでは確かなトラクション性能を発揮する。まさに“どこでも走れるスポーツSUV”という、現在のトレンドを先取りしたような性能を備えていたのである。
しかし、販売面では苦戦を強いられた。
2ドアというパッケージは日常使いに不向きであり、後方視界の悪さや硬めの乗り心地も一般ユーザーには受け入れられにくかった。そして何より、この大胆すぎるデザインが評価されるには、時代が少し早すぎた。
【画像ギャラリー】正直、今こそ新車で欲しい!! 「ビークロス」の筋肉質なプロポーションを写真でたっぷりチェック!(10枚)画像ギャラリー洗練されたデザインとコンセプトは少し時代を先取りしすぎたか?
結果として国内販売台数は約1700台にとどまるなど、ヒットモデルとはならなかった。
加えて当時のいすゞは、乗用車事業から撤退する転換期にあった。そんな状況の中で誕生したビークロスは、ある意味で“技術者とデザイナーの情熱が詰まった最後の挑戦”とも言える存在だった。
売れなかったのは事実である。しかし、その独創性と先進性は色あせない。むしろ現代の視点で見れば、ビークロスは「早すぎた名車」として再評価されるべき1台だ。
時代に迎合せず、自分たちの理想を貫いたクルマ。だからこそ“ざんねん”であり、だからこそ愛おしい。ビークロスとは、そんな唯一無二の存在なのである。
【画像ギャラリー】正直、今こそ新車で欲しい!! 「ビークロス」の筋肉質なプロポーションを写真でたっぷりチェック!(10枚)画像ギャラリー














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