2008年に登場したトヨタiQは、日本カーオブザイヤーやグッドデザイン賞を受賞しながらも、販売面では振るわなかった異色のモデルだ。全長3メートルを切るボディに4名乗車を実現するという、当時の常識を覆した意欲作である。販売終了から10年が経とうとする今、EVという新たな視点でこのクルマを見直すと、その先見性に改めて驚かされることも多い。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ
【画像ギャラリー】今こそ欲しいかも!!! トヨタ「iQ」の未来感あるインテリア&極小ボディを一挙(13枚)画像ギャラリー小さなボディに凝縮された最先端技術
iQ最大の特徴は、コンパクトな外寸と広い室内空間の両立だ。フロントオーバーハングを530mm、リアオーバーハングを455mmまで切り詰めながら、ホイールベース2mを確保するために、実に6つの革新的技術が投入された。
まず注目すべきはディファレンシャルギヤの反転配置だ。エンジンとギヤの位置関係を逆にし、ギヤをタイヤとともにエンジン前方へ移すことでフロントオーバーハングの短縮を実現した。
燃料タンクは超薄型化して前席床下に収め、リア側のスペース確保に貢献している。さらに前席シートバックの薄型化によって後席の居住空間を生み出し、前席の快適性は犠牲にしていない点も見事だ。
インパネは左右非対称デザインを採用し、助手席の足元を広げる工夫も施された。センター配置の超小型エアコンユニットも空間効率を高めるための合理的な選択。最小回転半径3.9mという取り回しの良さも加わり、都市部での使い勝手は抜群だった。
これほどの技術が詰め込まれたにもかかわらず、価格設定は当時のクルマとしては割安に映る水準である。しかし軽自動車やヴィッツと比較すると割高感が否めず、「なぜこの大きさでこの値段?」という消費者の疑問を払拭できなかったのが実情だ。
販売不振の真犯人は3気筒エンジンの振動
iQに実際に乗ってみると、「これはアリだ」と感じるシーンは多い。2シータースポーツカー感覚で乗れば十分すぎるほどだし、コンパクトなのに4人乗れるという実用性は際立っている。試乗会では室内の広さや小回り性能に感心するユーザーが続出したが、肝心の成約には結びつかなかった。
その根本原因は、1000ccモデルに搭載された1KR型3気筒エンジンが生み出す振動にある。1.3Lの4気筒モデルは問題なかったが、3気筒版はシートもステアリングも常時ブルブルと震え続けるのだ。3気筒エンジンの特性上、ある程度の振動は避けられないにしても、iQのパッケージングではそれが顕著に体に伝わってしまった。
試乗なしで購入したユーザーからは、納車後に「こんなはずじゃなかった」という声も相次いだ。販売店側も試乗させれば振動を嫌がられ、試乗なしで売れば後でクレームが来るという板挟みに悩まされることに。結果として、売り手自身がiQを積極的に勧められなくなっていった。
技術力の高さは疑いようがない。だが、ヴィッツより小さいクルマにヴィッツ以上の対価を払う説得力を、3気筒の振動問題が根本から損なってしまったのだ。販売現場における売り手側の及び腰こそが、iQ凋落の最大要因だったといえる。
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