おおこれは安心……なのか? 最近たまに見かける「多段階一時停止」ってなに? 危なくない??

 先日、一時停止の標識がある交差点で、赤い日本郵便の軽自動車が一時停止を3回繰り返し、慎重に交差点を出ていくのを見た。

 厳密に言うと、路面の道路標識「止まれ」の線で1回止まり、少し進んでまた止まり、最後にもう一度止まって左右の安全確認をしながら発進していた。

 その後、追従してしばらく日本郵便の軽自動車が前を走っていたのだが、ふとリアゲートを見ると、「安全のため、多段階一時停止を実施します」というステッカーが目にとまった。

 むむ、これはなんだ?? “多段階一時停止”とはいったいどういうものだろうか?「道交法で決まられたルールだったっけ?」と思いながら、モータージャーナリストの岩尾信哉氏に調査を依頼、解説してもらうことにした。

文/岩尾信哉
写真/ベストカーWeb

【画像ギャラリー】何がどう変わった? 改正道交法の中身をチェック!!

【お詫び
 本記事は(報道窓口である「日本郵便」広報部門へ正式に問い合わせたわけではなく)当初、日本郵便所有車両を無許可で撮影し、日本郵便お客様サービス相談センターへ電話取材し、そのやり取りを記事化したものです。記事全体の趣旨(「多段階一時停止は安全か否かを考証する」)を鑑みると、取材方法として適切ではなく、また一部、言葉の取り違いのミスがあり、その点をご指摘いただきまして、修正しております。関係各所にご迷惑をおかけしたことを、ここにお詫び申し上げます。ベストカーWeb編集部 2020年6月1日 11:00

※当記事は当編集部のミスにより、当初、弊社に掲載する権利のない写真(株式会社ワン・パブリッシング運営「GetNavi web」掲載の星川功一さん撮影の写真)を掲載してしまいました(現在はご指摘をいただき、当該写真を非公開としております)。また、その写真出典元をJAF(一般社団法人 日本自動車連盟)と誤記しており、多くの関係者の皆さまにご迷惑をおかけいたしました。謹んで謝罪します。申し訳ありませんでした。ベストカーWeb編集部 2020年7月10日 15:30


「多段階一時停止」は本当に安全なのか?

後日、大崎郵便局を訪れ、赤い郵便車に貼られているステッカーを撮影した。郵便局では配送への出発にも左右の指差し確認などともに「多段階一時停止」を行っている

  街中で普段から見かける郵便局の配送車両をよく見ると、軽自動車ならリアゲートなど、バイクなら荷受けボックスなどに「安全のために多段階一時停止を実施します」というステッカーが貼られている。

 さっそく調べてみると、郵便局では1/停止線で停止、2/車両の前端部が対面する道路の端で停止、2/見える位置まで移動して停止、という「多段階一時停止」を実施しているという。

 他にも運送業の佐川急便は、配送ドライバーの安全運転指導ルールのなかで「多段階一時停止」を義務づけており、50歳以上の運転者を対象として全国で開催されている安全運転実技講習会「シニアドライビングスクール」では、JAFがインストラクターを派遣。講義や実習体験による指導に採り入れているという。

 それでは、「多段階一時停止」が実際の路上でどれほど有効なのか、むしろ危険な場合もあるのではないか、現実的な効果を考えてみることにした。

「多段階一時停止」とは?

各都道府県警でも多段階一時停止を推奨している(出典/福岡県警)

 常日頃から街中でクルマを走らせる機会があるドライバーにとって、「多段階一時停止」が必要とされる状況に遭うことは決して珍しくはないはずだ。

 標識や停止線のある場所での一時停止は道路交通法で定められているので当然だが(標識や停止線がない場合には交差点の直前で停止)、実際の路上では一時停止線の位置からでは、対面する道路を行き交う車両や歩行者の動きを簡単には目視できないケースが出てくる。

 このために一時停止を繰り返すことで、自車の存在を前方の道路を通る車両や歩行者に伝えるのが「多段階一時停止」の目的となるのだが、中身を整理してみると…

1/一時停止線での一時停止
2/自車の鼻先が道路の端の位置するまで進んで一時停止
3/対面する前方の道路を走行する車両(歩行者)が自車の存在を目視・確認できる位置に進んで一時停止

 となっている。実際には最低でも3段階を経て停止することになる。周知の通り、道路交通法では停止線の手前で停止することが義務づけられているが、現実には自車側の道路が対面通行の場合、停止線は進入してくる車両のために交差点から数メートル手前に設置されている場合がほとんどだ。

 そこで、前方の交差点に最徐行でゆっくりと近づいて対面道路に接するように停め、さらに自車の前端(鼻先)を道路に出して停めて「見せる停止」として安全を確認するという「3段階」の一時停止を実施する段取りとなるわけだ。

 このように、出合頭の車両や歩行者との接触事故、衝突事故を防ぐための運転方法として、「多段階一時停止」に不自然さはそれほど感じられないが、後述するように実際の現場では慎重すぎるように思える場合もあるだろう。

「多段階一時停止」のステッカーが貼られていた日本郵便の見解

 今回は都内の郵便局の配送車両の後部に貼られていたステッカーをきっかけに「多段階一時停止」を採り上げることになったわけだが、まずは本件について、本企画担当編集者が東京都内で見かけた車両が所属している、東京都内の大崎郵便局に問い合わせてみた。

 すると、「日々安全運転の遵守を確認するために、郵便局から配送車両が出発する際などを含め、日常業務の中で多段階一時停止を全国の郵便局で実施しています」との答えが返ってきた。

 ステッカーを貼っているのは「各郵便局によってスローガンとして強調している場合もあります」とされ、後続車両に「多段階一時停止」を実施することを意識してもらうための策といえる。

 さらに「出合い頭の事故を避けるための“防衛運転”としての意味があるのです」とのことだった。

 それでも、急いでいる時には多少の煩わしさを感じると思うのでは? と意地悪に質問を投げかけてみたが「わずか数秒の行為ですから習慣化できます」とのことだった。

厳しい安全管理を実施する佐川急便

佐川急便のトラックに貼ってあるステッカー

 では、ドライバーが業務の中で常に安全運転が要求され、一般からの目も厳しい運送業界の企業であり、「多段階一時停止」の実施を社内規定として義務づけている佐川急便に取材すると、同社の世田谷営業所、安全推進課から取り組みについて回答を得られた。

 佐川急便では「社内ルールに基づき、全国的に安全運転指導を展開しています」とのこと。

「最近ではドライブレコーダーやインカーカメラを設置して“不安全行動”をチェックしています」とされ、ドライバー教育の一環として添乗指導による教育を実施している。

 同社では配送ドライバー(スタッフ)に安全運転を求めるなかで、出合い頭の事故をいかに防ぐかは重要な課題であり、そのための方策のひとつが「多段階一時停止」ということになる。

 運送を生業とする企業としては郵便局とともに当然の安全管理の施策であり、安全運転意識を徹底することに対する厳しさは想像どおりだった。

 それでも事故が避けようもなく起こってしまうという現実を認識していることも確かで、だからこそ多忙な業務をこなすなかで「多段階一時停止」を義務とすることは当然といえる。

JAFが推奨する「多段階一時停止」

1/一時停止線直前での一時停止(出典/JAF)
2/自社の存在を他車や歩行者などに目視・確認できる位置に進む見せる停止(出典/JAF)
3/左右の歩行者・交差する車両が直接目視確認できる位置で停止(出典/JAF)

 JAF(日本自動車連盟)では現在、50歳以上のドライバーを対象に、安全運転に欠かせない運転の基本操作を再確認する実技型講習会「シニアドライバーズスクール」を全国で開催している。その講習会で教えている多段階一時停止の内容は以下の通り。

1/一時停止線直前での一時停止
2/対面する前方の道路を走行する車両(歩行者)が自車の存在を目視・確認できる位置に進んで一時停止
3/歩行者・交差車両が直接目視確認できる位置で停止

 JAFの東京支部に「多段階一時停止」について訊いてみた。

 実際の参加者の所有車による実技を含めた講習では、日常点検の方法、正しい乗車姿勢、車両の死角など運転の基本となる知識を確認するほか、実際の道路で撮影されたビデオを見ながら車両/人/自転車の動きを客観的に観察することで、自身の運転を振り返ってもらう時間を設けているとしている。

 前方の道路の混み具合にもよるが、運転している車両によって前端の位置は変わるから、「多段階一時停止」において、前端部分をどれだけ前方に“覗かせるか”は、想像以上に微妙な感覚が要求される。

 このためJAFの実習では「講習会では実際に自分の運転操作の映像を見せて、停車位置の車両感覚を確認してもらっています」とのことだ。

JAFが全国で開催している50歳以上のドライバーを対象としたシニアドライビングスクールでの講習の模様(出典/JAF)

見逃せない危険な要素

 それでは、現実として「多段階一時停止」は本当に安全運転な行為なのか。対面する道路幅などにもよるが、接触事故を誘発する危惧はないだろうか。

 最近では車線の左端をすっ飛ばしてくる二輪車を多く見かけるし、車両前端に引っかけてしまうことも充分考えられる。

 なにより「多段階一時停止」は見通しの悪い状況において必要なのだから、先に触れたように、鼻先を出す操作にはある程度経験に基づいた注意と微妙な感覚が必要とされ、字面ほど簡単な行為ではないはずだ。

 これも意外に見逃せないのだが、前方車両のドライバーが「多段階一時停止」を行おうとしていることに後続車両のドライバーが気づかず、後続車両のドライバーがそのまま進行すると“思い込んでいれば”、追突してしまう可能性も出てくる(漫然運転と前方不注意として罰せられるのは致し方ないが)。

 たとえ気づいたとしても、前方車両がいらついた後方車両のドライバーからクラクションを鳴らされることも皆無ではないようだから、安全運転のための負の連鎖が起こってしまうのは避けたいように思える。

 それでも「多段階一時停止」はドライバーが走り慣れていない道路でどちらが優先道路かはっきりしない場合などでは安全確保には有効といえるのだから、行為そのものを否定すべきではないだろう。

なによりも心の余裕を!

自転車が交差点で一時停止せず、クルマとの衝突事故を起こすケースも増えている

 正直に言うと「多段階一時停止」をすべての交差点で励行するべきとは言い切れない。先に触れたように、後続車両から追突されるなど、かえって危険を生み出さないのかという危惧もある。

 だからこそ、見通しの悪い交差点などで「多段階一時停止」する車両があることを周囲の車両のドライバーが安全運転の一環として頭に置いておけるように、運送車両などがステッカーを確認しやすい位置に貼っておくことには意味がある。

 最近はあおり運転など安全運転についての日本人のマナーレベルが下がってきているように思えるし、コロナ禍による自粛によって誰もがストレスに苛まれているこの時期、安全のための「数秒」を待てる心の余裕を、常日頃からもてるようにしたいものだ。

【画像ギャラリー】何がどう変わった? 改正道交法の中身をチェック!!

最新号

ベストカー最新号

【水野和敏熱血講義も!!】ホンダ2025年までの新車戦略| ベストカー10月10日号

 ベストカーの最新刊が9月10日発売!  最新号のスクープ特集では2021年から2025年までのホンダの登場予想車種をいっきにスクープ。  そのほか、ベストカーでおなじみの水野和敏氏による「withコロナ時代に必要なクルマ」の熱血講義なども…

カタログ