新型フェアレディZのプロトタイプが公開された! その姿は一見して初代のS30型を強く彷彿とさせるものだった!
私のような昭和世代の元Zオーナー(32Zですが)には、Zの原体験があるので、一目見るなり「うおお!」と血圧が上がったが、世間を見回すと、思ったほどは盛り上がっていない。さらに言うと、クルマ好きやZファンに限っても、新型に対してそれほど肯定的ではないようだ。コアなファンにとっては初代だけが神。嫁がどんなに健気に頑張っても、姑は箸の上げ下げまで気に障るのだろう。


しかし私は、新型Zは期待をはるかに超え、ベスト以上の出来だと感じている。期待がほどんどゼロだったからではありますが、でも新型Zは、歴代Zのヘリテージをうまく生かしたデザインで相当イイ!
では、歴代Zの、デザイン的なヘリテージを振り返ってみましょう。
文/清水草一
写真/NISSAN、編集部
【画像ギャラリー】歴代モデルへのリスペクトを感じるか!? 新型フェアレディZプロトタイプの姿を一気にチェック!!
■初代 S30(1969~1978年)
1969年に登場した初代フェアレディZは、「ジャガーEタイプみたいなスポーツカーを作ってくれ!」という片山豊氏(米国日産社長)のリクエストに応えたもので、当時のスポーツカーの主流だったロングノーズ・ショートデッキスタイルを採用している。
さすがにジャガーEタイプほどロングノーズではないが、長い鼻のずっと後方に小さめのキャビンが付き、テールに向かってなだらかに下りつつ最後にピュッと軽く跳ね上がるスタイルは、当時の表現で「トランジスタグラマー(小柄だがグラマーな女性を表す言葉)」そのもの! 丸形2灯のヘッドライトを、ノーズの左右を切り欠いたスペースに埋め、グリルは逆スランドしたシンプルな長方形。フォルムはシンプルかつコンパクトで、清楚でありながら実にセクシー!

このデザインは、世界中の、中でもアメリカ人の心を捉え、約10年間で55万台という、スポーツカー世界新記録の販売台数を記録した。
初代Zのデザインは時間的耐久性も抜群で、いま見ても奇跡のようにカッコいい。トヨタ2000GTほどのスペシャル感はないが、大衆のアイドルとしてこれ以上のデザインはありえなかった! 日本車史上、最も”カッコいい”クルマは何かと問われれば、私は今でも迷わず初代Zを挙げる。
■2代目 S130(1978~1983年)
2代目は初代の正常進化型。全体にモダン化されつつややグラマーになり、サスペンション形式変更の関係でリヤオーバーハングが若干長くなったことを除けば、フォルムに大きな変更はない。このキープコンセプトは大成功で、販売台数は5年間で45万台と、初代よりさらにペースアップした。

個人的には、大学時代、サークルの先輩が280Zの2シーター(もちろんMT)に乗っていて、それがあまりにもカッコよく、Zに関する原体験となりました。ご本人も早瀬佐近(漫画『サーキットの狼』に登場するキャラクター)みたいなルックスで、お金持ちのボンボンという点も同じ。運転も一番上手く彼女も美人で、何もかも兼ね備えた光輝く先輩だったのです……。Zってのはそういう存在でした。
■3代目 Z31(1983~1989年)
ロングノーズは維持しつつ、ボディをワイド化して3ナンバーボディに。ノーズはやや尖った形状になり、ヘッドライトはセミリトラクタブル。当時の印象は「アメリカンでワイルドにカッコよくなった!」だった。つまり外車っぽくなったということで、そのころの若者にとって外車なんて雲の上の存在だったので、全面的に「善」だった。

ただ、いま改めて見ると、それは大味さの増大でもあり、デザインの時間的耐久性はあまりなかった。モデル末期には、時代の流れにより、ロングノーズ・ショートデッキスタイル自体が古臭く感じられるようにもなっていた。
■4代目 Z32(1989~2000年)
それまでのロングノーズから、時代に沿ったキャブフォワードスタイルに大変身。全幅も1800mmまで広くなり、これまでのZから完全に脱皮し、新世代のGTスポーツカーに生まれ変わった。
最大の特徴は、ワイド&ローでグラマラスなフォルムだ。特にフロント部の左右の絞り込みは、従来の国産車ではありえない贅沢さ。4代目は「外車っぽい」ではなく、「まんま外車になった!」と感じた。

当時のインパクトたるや凄まじく、世の中がバブル景気に沸くなか、ジャパン・アズ・ナンバー1的な高揚感を与えてくれた。私も発表と同時に予約を入れて新車で買いました。2by2のターボ(MT)でした。
32Zのデザインは間違いなく傑作だったが、チーフデザイナーを務めた前澤義雄氏は、「もっと軽くて、筋肉質で、しなやかで、ひきしまった感じの、スポーツカーそのものにしたかった」「もっとホイールベースを縮めて、トランスアクスルにして、17インチを履かせて、オーバーフェンダーにしたかった。狙ったより乗用車的になってしまった」「肉付きがよすぎる。贅肉が多いんだ。だいたい、でかすぎた。やり残したことだらけだ」と漏らしていた。
確かに、登場から30年を経た今では、ちょっと重くたるんで見える気もする。

■5代目 Z33(2002~2008年)
ゴーン社長の号令によって2年ぶりに復活を果たしたZは、Zの雰囲気を残しつつ、前後オーバーハングを大幅に切り詰め、運動性能が高そうなスポーツカーフォルムに生まれ変わったが、全体としてはどこかパンチが弱く、中途半端だった。前澤義雄氏は、こう評している。

「初代Zのノーズが低く伸びやかなのは、フロントに長いオーバーハングがあったからだ。同じプロポーションをショートオーバーハングでやろうとするから、こうなる。前が分厚くて、鈍重なイメージだ。絶対評価として、カッコいいとは言えない」
■6代目 Z34(2008年~)
先代のホイールベースを100mm切り詰め、全長は短く全幅は広くなり、さらに本格派のスポーツカーフォルムに進化。前澤さんは、「本当はこれくらいのサイズのZが作りたかった」と肯定しつつ、「GTカーのデザインのまま、コンパクトで機敏なスポーツカーに仕立てたことで、ただドロッとした感じになり、みすぼらしく見える」と、スタイリングは酷評した。

ヘッドライトやテールランプの形状は、無意味にツンツンしたブーメラン型で、初代のシンプルなディテールとは大きくかけ離れていた。前澤氏はこれについても、「切り絵の切れっぱしのようで、ただ浮いている」とバッサリ。
■7代目 プロトタイプ(2021年?~)
前述のように、初代S30を強く彷彿とさせるデザインだが、プラットフォームはZ34ベース(たぶん)。Z34は、シュートホイールベースでオーバーハングを切り詰めた結果、伸びやかどころかコロンと丸まったようなノーズを持つが、新型はフロントオーバーハングを大幅に伸ばすことで、ロングノーズ感を復活させている。
ただ、直6ではなくV6搭載のキャブフォワードルックがベースだけに、ロングノーズ化には限界があり、初代Z信奉者に言わせれば、中途半端かもしれない。

ボンネットのパワーバルジや、滑らかに流れ落ちるルーフラインは、初代のイメージをそのまま踏襲。長方形のグリルも同様だが、初代にあったメッキバンパーがないため、四角い口が丸出しに。ヘッドライトは初代の丸形をイメージさせる瞳型で、フロントフェイスにはそのほか何も要素がなく、極めてシンプルだ。


また、日産デザインを統括するアルフォンソ・アルバイザ氏によれば、リヤデザインは、「S30やZ32型などいくつかの歴代Zが持つテールランプからインスピレーションを得て現代流にアレンジ」とのこと。
確かにテールランプの形状はZ32に似ているが、サイドに回り込んでいる点は異なる。また、ディフューザー的な形状がテール中央部までせりあがっているため、テールの切り落とし面の上下幅が狭く、後ろ姿にはフェアレディZ感がやや希薄だ。


個人的には、スピードへの情熱が消えた現代において、スポーツカーのデザインは懐古的であることが必須と考えている。もちろん昔の形まま出すわけにはいかないが、新型Zのデザインは、もう一歩初代に近づけて欲しかった、とは思う。特にリヤスタイルは、インパクトもZ感もやや弱い。
ただ、全体の方向性としては、「初代のモダン化」である新型のデザインには、100%賛成だ。
■このデザインを、故・前澤義雄氏が見たらどう言うだろう?
前澤さんは、自身がチーフを務めたZ32に関してすら、「従来のZに縛られすぎた」と述べているし、Z33は「基本が近代的な借り物で、そこに古典的フォルムを乗せた。どうやっても完璧にはできない」。Z34に散りばめられた初代のイメージについても、「未だにそんなものに頼っているようじゃダメだ」と一刀両断していた。
つまり、前澤さんが生きていれば、新型を一目見るなり、「論外」とコテンパンにしただろう。そして、肯定派の私と真っ向対立の水かけ論になっただろう。それをやりたかった……。