現状、インフィニティディーラーを国内で展開するのは厳しい
ただしインフィニティの店舗を国内で展開するのは難しい。トヨタが2005年にレクサスの国内営業を開始した頃、日産もインフィニティの国内展開を検討したが、結局は見送られた。トヨタと日産では事情が違うからだ。
トヨタがレクサスを開業した2005年に、トヨタの国内販売台数は171万台であった。国内の小型/普通車市場に占める割合は44%だ(2019年も46%)。
しかも2005年頃のトヨタは、クラウン、同マジェスタ、マークX、プログレといった価格の高いセダンを豊富に用意しており、そこからメルセデスベンツやBMWといった欧州プレミアムブランドに乗り替えるユーザーも目立ち始めた。
例えばメルセデスベンツの日本国内販売台数は、1990年には約3万9000台だったが、2005年には120%近い4万6000台に増えていた。
逆にトヨタの国内販売台数は、1990年が250万台で、2005年は171万台だ。景気の悪化を受けて、1990年の68%まで減った。
メルセデスベンツの年間販売台数は5万台に満たなかったが、セダンを中心にトヨタ車の顧客が輸入車に移る傾向が見られたことから、日本国内でもプレミアムブランドのレクサスが必要だと判断された。
海外のレクサスは高価格車の売れ行きを伸ばすためのブランドだったが、日本ではトヨタの市場を守るために開業したわけだ。
ところが日産の国内販売台数は、1990年が140万台で、2005年は87万台だ。トヨタの250万台/171万台に比べると、50~56%にとどまる。市場規模が大幅に小さい。
加えて高級車需要の多いトヨタでも、レクサスの国内発足当初は業績が伸び悩んだ。当時のトヨタ店やトヨペット店は約1000店舗、トヨタカローラ店は約1300店舗、ネッツトヨタ店は約1600店舗を国内展開していたが、レクサスは2005年の開業当初も現在も約170店舗にとどまる。
そのためにセルシオがレクサスLSに、アリストがレクサスGSに変更されたことで、販売面では不利になっていた。
レクサスは店舗の建設や運営コストも高く、日産はその困難な状況を見ていたから、インフィニティを国内では開業しなかった。
またインフィニティQ50はスカイライン、Q70はフーガとして日産ディーラーから販売されているので、改めてレクサスブランドを国内で立ち上げる必要はない。
1989年11月に発売されたインフィニティQ45は、この車名で日産の販売店が扱った。このあたりは柔軟に考えれば良いだろう。専用の店舗を設けると、コストが過剰に高騰してしまう。
ちなみに海外における日本車は、1970年代前半のオイルショックをきっかけに、低燃費で価格も安く壊れにくいことをセールスポイントに普及した。
したがって日本車のブランドイメージは高価格車に合わず、別のブランドを用意する必要があった。
特に北米では、GMのなかにもシボレーからキャデラックまで、複数のブランドがヒエラルキーを伴って併存する。小さくてもキャデラックであれば、大きなシボレーよりも高級という認識が定着している。
したがって日産のインフィニティ、トヨタのレクサス、ホンダのアキュラも理解されやすかったが、日本は事情が違う。
日産は1960年に初代セドリック、トヨタは1955年に初代クラウンを発売しており、最初から高価格車も扱う総合自動車メーカーだったからだ。日産は日本国内でインフィニティを展開する必要はなく、その状況は今後も変わらない。
ホンダカーズ(ホンダの販売店)では、一部の店舗に高級車を中心に扱う「クオリティセレクト店」に指定していた時期がある。
ほかのホンダカーズと同じく軽自動車まで扱うが、店内を落ち着いた雰囲気に仕上げて、レジェンドやアコードの試乗車/展示車を積極的に用意した。
しかし効果は上がらず、結局は廃止されている。そもそもレジェンドやアコードは、かつて系列があった時代のクリオ店が扱っており、クオリティセレクト店には一度撤廃した系列を復活させるような中途半端な印象もあった。
そして系列を撤廃すると、販売しやすい人気車の売れ行きは一層伸びて、不人気車はますます売れなくなる。
ホンダの場合、2020年に入ってから国内で売られたN-BOX、N-WGN、フィット、フリードの販売台数を合計すると、国内で販売されたホンダ車の70%以上を占めてしまう。
トヨタも全店が全車を販売する体制に移行したことで、一部の地域を除いて4つの系列は残るものの、実質的に意味を持たなくなった。
2020年9月の売れ行きを見ると、アルファードは姉妹車のヴェルファイアに比べて8倍以上も売れている。販売格差が拡大した。
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