■ディーゼルの生き残る道に電動化はないのか!?
では、ディーゼルターボエンジン車での電動化の道はどうなのだろう。
メルセデス・ベンツにはディーセルターボエンジンのPHEVがある。「E 300de」がそれだ。しかし、ほかのメーカーからは情報を聞かない。理由は、ディーゼルターボエンジン車は、排出ガス浄化のため後処理装置に原価が掛かるうえ、さらにモーターやリチウムイオンバッテリーを追加搭載しなければならなくなるので、よほど付加価値の高い車種でなければ車両価格が高くなりすぎる懸念があるからだ。
メルセデス・ベンツは、現在のディーゼルターボエンジン車の多くが採用する尿素水を利用するSCR(選択触媒還元)という後処理装置を、日産ディーゼル(現在のUDトラックス)とともに早くから開発し、採用してきた経緯がある。
これに対し、ほかの自動車メーカーは尿素SCRでは原価が掛かるうえ、尿素水を定期的に補充しなければならない手間を嫌って、NOx(窒素酸化物)触媒で後処理を済ませようとした。ところが、それでは不十分で、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼル排ガス偽装問題が表ざたとなった。以後、多くの自動車メーカーはディーゼルターボエンジンに尿素SCRを使うようになったのである。
メルセデス・ベンツ E 300deに試乗すると、モーター駆動の補助によって滑らかな加速であるとともに、エンジンを高回転で回さなくても充分な加速が得られるため、振動や騒音が抑えられ、実に快適だ。ディーゼル車であることに気づかないほどだ。だが、ここまで滑らかで静かな走行となるならば、いっそのことEVにすればいいと思わないでもない。
■欧州市場以外は問題なし? ディーゼルが突き付けられた現状
次に、欧州以外の市場についてはどうか。
世界最大の中国、それに次ぐ米国ともに、ディーゼル車への依存度が低い。中国は、エンジン車よりEVをはじめ電動車に力を注いだほうが国力を高められる利点がある。
米国は、もともとガソリン価格が非常に安い。ガソリンにかかる税金も低い。このため、あえて軽油を使うディーゼル車を選ぶ理由が乏しい。そのうえで、カリフォルニア州に代表されるように光化学スモッグという大気汚染への嫌悪感が強い。
実際1990年代にカリフォルニアを訪ねた際、霧が降りてきたと思ったが、実は湿気がなく乾いた霧で、つまりスモッグが地上まで降りてきていることを体験したことがある。思わず息を止めようとしたが、そんなことができるはずもない。そのような大気環境に生活している人にとって、クリーンディーゼルだとはいっても、ガソリンエンジンより光化学スモッグ発生物質を多く含むディーゼルエンジン車を選ぶ理由はないのである。
そして、米国大陸の西海岸と東海岸を中心としてカリフォルニア州が進めるZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制を採り入れようとする動きがある。それらの地域は、米国中部に比べ都市部の人口密集が高いからである。つまりクルマが増えれば大気汚染が悪化する。
日本の自動車メーカーは、米国で成功することを目指し、今日なお米国依存体質に変わりはない。たとえば、SUBARUは販売の7割を米国に依存している。これに対し欧州はどのメーカーも数パーセントから10%前後でしかない。なおかつ、そこで人気を得てきたディーゼルターボエンジンが、CO2規制に対処できなくなっているのである。
ディーゼルターボエンジンを続ける理由はもはやない。トヨタは、EVの市場導入で遅れてはいるが、欧州でのHV販売に力を注いだことから、反則金の支払額を抑えることに成功している。ホンダの新型フィットは、欧州ではHVしか販売しない(国内にはガソリンエンジン車の選択肢がある)。
地球上でよほどの僻地か、道路整備が充分でない地域などでは、燃費がよく、粘り強い走りを得られるディーゼルターボ車が望まれる可能性はあるし、クリーンディーゼル車の性能自体に疑いの余地はない。だが、それを求める市場がわずかしかなくなってきているのである。
そこにどれだけの投資をするのか? 止めるのか? 企業判断が求められた結果のディーゼルエンジン車撤退や縮小である。
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