これまでの歴史を振り返ると、フルモデルチェンジで売れている現行型のキープコンセプトだったモデルは数多くあった。しかし、販売が停滞しているモデルが、新たな方向性を模索することが多かった。
ここでそんな流れに逆らう動きを見せたのが、ホンダの新型「N-ONE」だ。中身は一新したのに、外見はほぼ従来型と区別がつかないレベルの変更のみという決断をしたのだ。
従来型の販売台数を見れば、お世辞にも売れていた……とは言えないN-ONE。にもかかわらず、あえてその路線をキープしたのは、ホンダなりのこだわりがあるのだろう。
とはいえ、乗り換え需要もあまり期待できないにも関わらず、大人気スズキ「ハスラー」などのようなキープコンセプトにしたのは大丈夫なのか? ホンダがN-ONEを作り続ける理由と事情は何なのか? また、ホンダが考える期待と、それとは裏腹に感じる不安を考察いきたい。
文/岡本幸一郎
写真/編集部
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■前代未聞の変わらなさ具合! 新型N-ONE登場
2011年の東京モーターショーで4台の「N CONCEPT」が出展され、ほどなく年末に発売された「N-BOX」を皮切りにスタートしたNシリーズは、ホンダの軽自動車戦略に大きな成功をもたらしたのは周知のとおりだ。
「N-ONE」は翌2012年11月に世に送り出された。1960年代に名をはせたホンダ初の乗用車である「N360」をモチーフとしたスタイリングは、件の東京モーターショーで披露された頃から大いに話題を集めて、発売当初はそこそこの売れ行きを見せた。ところが2013年、よりオーソドックスな「N-WGN」が発売されるや、N-ONEの販売は一気に落ち込んでしまった。
やがてN-BOXとN-WGNがモデルチェンジして2世代目に移行するいっぽうで、N-ONEは置き去りにされた感があったのは否めず。N-WGNの標準系がN-ONEに似た丸目のヘッドライトとなったこともあり、ますますもって次期N-ONEはないのではという不確実なウワサも聞かれたが、実際にはその頃すでにプロジェクトはそれなりに進んでいたようだ。
2020年の東京オートサロンに出展されたレース仕様のN-ONEのコンセプトカーは、目にした多くの人に衝撃を与えた。それが次期型がベースであることが明かされたものの、現行型とほとんど同じ姿であったのに加え、6速MTが搭載されていたのも目を引いた。
そして11月、N-ONEは予定どおりのスタイリングで正式にフルモデルチェンジを果たした。
インテリアの雰囲気はだいぶ変わり、外観も前後の意匠やバンパー形状が心なしか変わったのはわかるものの、基本デザインを色濃く踏襲していて、とにかく初代と似ているというのが第一印象だったわけだが、それもそのはず。スチールのボディパネルは初代とすべて同じものだというから驚く。
モデルチェンジしてもデザインテイストのあまり変わらなかった例は過去にもいくつかあるが、ここまで変えなかったというのは前代未聞だ。
直近では、2020年初頭に登場したスズキ「ハスラー」もかなりキープコンセプトで、変わらなさすぎるのもどうかと思うし、あまり大きく変えるとハスラーらしさがなくなるところ、ひと目でハスラーとわかるアイコンを残しつつ、ニューモデルらしい新鮮味を与えるよう心がけた旨を開発責任者も述べていたことを思い出す。
ただし、従来のモデルが売れていたので、できるだけ変えなかったというハスラーのケースは納得できる。ところがN-ONEの場合は、売れていないのに変えなかったのだから、その理由が気になるところだ。
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