クルマのキャラクターづくりが駆動方式を左右する
デメリット無しに駆動方式が自由に選択できるなら、設計者はいろいろと考える。
後輪駆動にするメリットとしては、前輪が操舵に専念できるからステアフィールが良い、舵角が大きく取れるから回転半径が小さくなる、前軸荷重が軽くなるので回頭性が軽快、駆動トルクで後輪を滑らせることが可能なのでドリフトが楽しめる…、などが挙げられる。
このあたりはクルマの「キャラづくり」の話で、実際にホンダ eの設計者は「使用するモーターがクラリティ用のパワフルなものなので、走りがスポーティな後輪駆動を選んだ」と述べている。
いっぽう、VW ID.3の方は“MEB”というEV専用プラットフォームから派生する姉妹車もあり、スポーティだからといった単純な理由とは思えないが、こちらは衝突安全性を考えての選択だった可能性がある。
衝突試験のモードは時代とともに変化していて、最近ではスモールオフセット衝突がNCAP評価を左右する重要なテスト項目。現状のEVは同クラスのエンジン車より最低200〜300kgは重いから、衝突安全性という点では決して楽ではない。フロントの衝撃吸収構造をどう設計するかは難しい案件なのだ。
その辺を考慮すると、フロント部分に大きな構造物がないリアモーターRRは、もっともボディ設計の自由度が高い。エンジン車も同じだが、小さいクルマほど技術的に衝突安全性能を確保するのが難しいわけで、コンパクトなEVほどリアモーター後輪駆動にする必然性があるともいえる。
現状は既存のエンジン車のプラットフォームを流用するケースが多数
さて、ここまでは専用プラットフォームを与えられたEVの話をしてきたわけだが、世の中には既存のエンジン車のプラットフォームを流用したEVも多い(というか、現状はその方が多数派)。
EV専用プラットフォームはエンジン車には流用できないから、投資という面ではリスクが大きい。ただでさえ電池コストのかさむEVは利益を出すのが難しいビジネス。なるべくなら既存のプラットフォームの手直しくらいで造ってほしいというのが経営サイドの本音だろう。
こちらは、当然ながらエンジン車の駆動方式を引き継ぐから、FFベースは前輪駆動(もしくはFFベース4WD)、FRベースはリアモーターの後輪駆動(あるいはFRベース4WD)になる。
前者の代表は、元祖量産EVのリーフ、プジョー e-208、eゴルフなど。後者ではメルセデス EQCやBMW iX3などがこのグループだ。
エンジニアリングの常識で考えると、わざわざプラットフォームをEV専用に起こした方が流用組より優れていて当然と思うが、少なくとも現状ではまったくそんなことはなく、ほとんど互角かむしろ使い勝手が手馴れていて流用組の方が好ましい部分すらある。
その典型として最近感銘を受けたのがプジョー e-208だ。EVとしての性能は十分だし、208シリーズの好ましい乗り味もそのまんま。しかも、50kWhと十分な電池を搭載して400万円を切るお買い得価格だ。
欧州ではVW ID.3のベース車(電池容量45kWh)が約3万ユーロ(約358万円)から買えるらしいが、フランクフルトショーで実車を見た限りではID.3の方がはるかにチープ。
まだ試乗できていないからなんとも言えないが、EV専用プラットフォームのコスト的なしわ寄せで、内外装のクォリティが犠牲になっているように感じた。
長期的に見れば、いずれはすべてのEVが専用プラットフォームに移行するのは必然だが、いまはまだそれが始まったばかりの過渡期。熟成されたエンジン車のプラットフォームを利用したEVも、かなり長期にわたってしぶとい競争力を発揮しそうな気がしますね。
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