■軽自動車が独自性を維持しつつ これからの変化に対応するために必要なこと
まず考えられることは、軽自動車に搭載するストロングハイブリッドのコスト低減だ。現時点でもコンパクトカーでは、ノーマルエンジンとハイブリッドの価格差が30万円台に収まる。軽自動車では機能を簡略化してマイルドハイブリッドに近づけ、車両の軽量化と併せて20万円の上乗せで2030年度燃費基準を達成できれば、存続も可能になる。
軽自動車のクルマ造りを見直すことも大切だ。軽自動車は競争が激しく、内装の質、シートアレンジ、各種の装備を競いながら向上させてきた。安全装備の充実を筆頭にユーザーに大きなメリットをもたらしたが、価格の高騰も招いた。今後ストロングハイブリッドのコストが上乗せされるなら、スズキ『ワゴンR』やダイハツ『ムーヴ』など、求めやすいハイトワゴンを改めて充実させることも必要だ。
例えばダイハツ『タフト』の「X」は、ガラスルーフのスカイフィールトップ、フルLEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキなどを標準装着して、価格を135万3000円に抑えた。スカイフィールトップは省くとして、LEDヘッドランプと電動パーキングブレーキを装着した仕様が125万円前後のハイトワゴンを用意すれば、20万円のハイブリッドを加えても145万円に設定できる。
燃費効率の向上を考えると、排気量を拡大する方法もある。直列3気筒1.5Lノーマルエンジンを搭載するトヨタ『ヤリス』の「Z」は、車両重量が1020kgでも、WLTCモード燃費は21.6km/Lに達する。軽自動車は車両重量の割に排気量が小さく、エンジンに重い負担を強いている。そのためにギヤ比もローギヤード化されて燃費で不利になる。
軽自動車の開発者は「今の軽自動車にとって、燃費を含めて効率が最も優れている排気量は700~800cc」という。排気量の拡大でエンジン負荷を減らし、燃費を向上させる方法もある。
ただし排気量の拡大は、慎重に対処する必要がある。自動車税は排気量を基準に成り立つから、排気量の拡大は、軽自動車税の増税とセットにされかねない。新車として売られるクルマの37%を軽自動車が占める今、税金を徴収する立場で考えれば、税額をなるべく増やしたい。軽自動車の税額を守るために、ボディサイズや排気量の拡大論議は慎重に行うべきだ。失敗すると本末転倒になってしまう。
中古車の有効活用も大切だ。新車価格が高まって購入しにくくなるのであれば、上質で価格の求めやすい中古車を市場へ積極的に供給することも大切になる。
以上のように、2030年度燃費基準への対応では、軽自動車の価値を再認識する必要がある。公共交通機関が未発達な地域では、高齢者が軽自動車を使って日常の通院や買い物をしている。運転に不安を感じたら運転免許を返納すべきだが、それができない事情もある。
軽自動車は小型/普通車と違って福祉車両の性格が強く、なおかつ生活に不可欠な社会インフラでもある。困っている人達を助けるのが軽自動車だから、その意義に反する制度を作ってはならない。日本の自動車制度を考える時、あらゆる側面において、軽自動車を常に尊重すべきだ。
コメント
コメントの使い方