ホンダオデッセイは、2020年にビッグマイチェン。エクステリアデザインが変更されるのは、2017年以来となるが、エクステリアデザインはフルモデルチェンジに近いレベルで大幅に変更された。
現行オデッセイがデビューしたのは2013年で、先代の4代目以降、かつてミニバンブームをけん引した存在であることが忘れ去られるほど、存在感が薄くなっている。
オデッセイのミニバンとしての存在意義とは? 今後どのような方向性が望まれるのか? などについて御堀直嗣氏が考察する。
文/御堀直嗣
写真/HONDA、TOYOTA、奥隅圭之
【画像ギャラリー】ブームをけん引した初代から最新モデルまで!! 蔵出し画像で振り返るホンダオデッセイの25年超の歴史
■苦戦はしているがマイチェン後に光明
2020年のホンダオデッセイの販売台数は、年間で9717台であり、登録車の販売実績として47位に終わった。競合とされてきた、トヨタエスティマや日産プレサージュ、マツダMPVは、もはや市場から姿を消しており、孤軍奮闘のなかでの販売成績だ。これをどう見るか?
単純に12カ月で割り算すれば、平均809台で、3桁になる。しかし、2020年11月にマイナーチェンジをしたあと、11月には1720台を売って30位、12月には1140台を売って40位ということで、4桁の台数を回復している。
11月は、その急回復振りによって、トヨタのアルファードには遠く及ばないが、ヴェルファイア超えをしている。12月は、ホンダの象徴ともいえるシビックを上回っている。
SUV(スポーツ多目的車)人気と、5ナンバーのコンパクトカー、そして5ナンバー格のミニバン(グレードによっては3ナンバー車がある)が中心の市場にあって、アルファードは別格としても、それに次ぐ車格のミニバンとしてオデッセイを求める消費者はまだ残っているとみていいのではないか。
唯一無二の存在として、これから復活の可能性もあると私は考えている。
それは、なぜか?
■高齢化社会でこそ光る存在感
実用性重視の軽自動車スーパーハイトワゴンと、登録車の5ナンバー格ミニバン以外で、上質な移動空間をもたらすミニバンは、アルファード/ヴェルファイア、エルグランドとオデッセイしか残っていない。
経済成長が見込めない今日において、実用性重視のスーパーハイトワゴンや5ナンバー格ミニバンがまず人気を集めている状況はともかくも、贅沢な空間を味わいたい人には、アルファード/ヴェルファイアのようなミニバンが、ストレッチリムジンに替わる存在として高く評価されている実態がある。
またトヨタは、グランエースという、アルファード/ヴェルファイアを超える大きさのミニバンも投入した。
いっぽうで、上質さは求めながら、アルファード/ヴェルファイアでは大きすぎると感じている消費者もあるはずだ。顧客層としては、高齢になりながらもゆとりある暮らしをしながら、孫の送り迎えなどを手伝う元気な人々がいるのではないか。
その世代は、初代オデッセイを経験した人も多いだろう。実際、私の亡き父も、70歳を超えて孫の送り迎えをオデッセイでしていた。
夫婦共働き世帯が増え、子供の習い事などへの送迎に手が回らない両親に代わり、愛車のオデッセイで送って行き、待つ間は読書をし、帰りにはファーストフード店などに立ち寄って孫と楽しいひと時を過ごす。そういう日々を私は見てきた。
たとえばそのような暮らしのなかに、オデッセイは、選択肢のひとつとなるのではないだろうか。またそうした体験を子供たちがすることで、ミニバンの快適さを覚え、自らが運転する時代にミニバンが候補となる可能性は残る。
■オデッセイにしかない魅力
そうした需要を想像しながら、マイナーチェンジを受けたオデッセイを見れば、室内の上質さや高級感を特徴のひとつとしている。アルファード/ヴェルファイアに通じるような、2列目の座席のロングスライドを採り入れ、リムジン感覚で移動することもできる。
また、初代からオデッセイの特徴のひとつとなるのが、3列目の座席を使わないときには折りたたんで床下へ収納できることだ。
荷室を広く使え、左右へ後席を跳ね上げる他社の方式に比べ、重たい座席を床下に収納することで重心が低くなり、走行安定性を損なわずにすむ。背の高いミニバンとはいえ、ふらつきにくく安心して運転できるのが、初代オデッセイからの利点だ。
これに、ホンダセンシングが加われば、高齢者にも安心して運転できるのではないか。
3列目の座席もそれほど窮屈な思いをせずに座っていられるのも、オデッセイのよさといえる。
オデッセイには、市場から消えていった競合ミニバンと違った特徴があり、そのうえでアルファード/ヴェルファイアにも通じるような上質な室内の雰囲気をマイナーチェンジで手に入れたといえるだろう。
それを知る消費者は、まだ限られているのではないか。従来の競合と違った素養を持つオデッセイの魅力をもっと発信すべきだ。
■3代目が凋落のトリガーを引いた!?
それでも、オデッセイがここまで販売に苦しむ要因はどこにあったのか。一番は、3代目で車高を下げ、ミニバン最大の特徴を失ったことだろう。

3代目のオデッセイは、ミニバンでも走りがよいことを目指し、車高を約10cmも低くした。見るからに精悍なミニバンとなったが、それならステーションワゴンでいいのではないか。しかし当時は販売が好調だった。
初代~2代目までのオデッセイ人気と、奇抜さが受けたからだろう。しかし、4代目も同じ路線でモデルチェンジし、販売は落ちた。そして現行の5代目となって、再び車高を戻している。
ハイブリッド車の導入も遅かった。現行の5代目となって3年が過ぎた2016年にようやく選択肢を加えた。競合だったエスティマは、初代プリウスに次ぐ第2弾として2001年に採用している。時代の読み違いがホンダにあった。
そしていまの若い世代にとって、オデッセイという車名が、そもそも頭に浮かばない状態となっているのではないか。これではミニバンが売れないというだけでなく、オデッセイという名前自体が選択肢に入ってこないことになる。
■今後の発展のためにPHEVの設定が必須
マイナーチェンジ後、販売台数を4桁に回復したオデッセイの購買状況を見ると、ハイブリッド車とガソリンエンジン車の比率は、66.7:33.3である。また、7人乗りと8人乗りでは、34:66。
グレード別では、上級のアブソルートEXが81%だ。また、発売された福祉車両では、2列目のサイドリフトアップ車が26台、助手席のアップシート車が11台とのことだ。
ここから見えてくることは、電動化への期待が高いこと。7人乗りの2列目キャプテンシートより、実用性を重視する2列目ベンチシートが好まれていること。
いっぽうで、装備がより充実している上級車種が好まれている。そして、福祉車両への需要も起こりはじめていることだ。
この先のオデッセイの発展性を考えれば、電動化をより進めたプラグインハイブリッド車(PHEV)を早く手掛ける必要があるのではないか。
それによって暮らしの安心とミニバンが繋がることになる。PHEVから住まいへの給電を行うことで、停電が起きても電気を使える環境を保持できるからだ。
またチャージモードを搭載すれば、ハイブリッド走行をしながら充電し、帰宅したら停電した住まいに給電することも可能になる。スマートフォンはもとより、電気に依存した現代の生活への安心は欠かせない。
こうしたクルマと暮らしの関係は、2輪・4輪・汎用の事業を持つホンダであればこそ、総合的に未来像を描けるのではないか。
■挑戦する姿を見せることが重要
クルマのある暮らしを彩るという点において、ホンダアクセスの取り組みはいつも注目させられる。研究所とホンダアクセスの共同開発というのも、モビリティの新たな何かを生み出すかもしれない。
高齢化社会がこれからさらに本格化するなか、床が低く足を踏み入れやすく、背の高さによって体をあまり屈めなくても乗れるミニバンは、福祉車両に限らず、ユニバーサルデザインの視点においてもミニバンの価値は残るのではないだろうか。
初代オデッセイは、クリエイティブムーバー第1弾であった。研究所と、広告担当のホンダコムテックが協力して、クルマの新しい価値を創造(クリエイティブ)したのだ。
いまは、クルマと暮らしを結び安心と喜びをもたらすクリエイティブムーバーに、オデッセイはなれると思う。SUVより広い空間が、モビリティとしての拡張性を持つ。
そうした挑戦する姿こそ、消費者がホンダに目を向け、ホンダを選ぶ動機付けになっているはずだ。
ミニバンが売れない、オデッセイが売れないではなく、オデッセイのブランド力を回復させ、ホンダという企業の特徴を活かした商品の総合戦略が求められているのではないか。