■40分を費やして魅せるレースシーンは必見
そして、最大の見どころはやはりレースシーン。デイトナ等も登場するが、もっとも重要でもっとも長尺なのがハイライトになるル・マンの24時間レース。このシーンだけでおよそ40分を費やしていて、シェルビーはピットでレオ・ビープの横やりを交わし続け、マイルズはひたすら車を走らせる。
疾走するレースカーを地面スレスレのカメラで追いかけ、クラッシュする車のその瞬間も容赦なく映し出し、車内にカメラを置き、ドライバーの緊張MAXな表情&見事なドライビングテクニックを捉える。その臨場感はすさまじく、ガソリンの匂いすらしてきそうなほどだ。
彼らがこだわったのは、デジタルのなかった時代のカーレース映画のようなリアリティ。スティーブ・マックィーンの『栄光のル・マン』(71)や、三船敏郎も出演していたレース映画の最高峰『グラン・プリ』(66)を参考にしたという。
もちろん、耳をつんざくような爆音やタイヤの軋音も効果バツグンで、さすがアカデミー賞音響編集賞受賞の仕事っぷりなのだ。
マンゴールドはこのル・マンシーンにこだわりぬき、当時のレース風景を可能な限り再現している。そのため実は5つのサーキットで撮影し、それを巧みに組み合わせて66年のル・マン会場を創り上げているのだ。オスカー編集賞のゆえんはこの辺にもあるのかもしれない。
映画ファンにとっては文句ナシの映画ではあるのだが、車ファンは、本作が施した変更がきになるようだ。事実とは違うじゃないかという点である。
たとえば副社長のレオ・ビープ。本作ではもっとも嫌われる悪役なのだが、実際は優秀なビジネスマンで、人望も厚かったという。
そういう映画的な変更を快く思わなかったらしいフォード社は結果、本作から距離をおくことにしたとも言われている。そのせいなのか、エンドクレジットには協力社としてフォード社の名前は記されていない。
■アポロ計画にも匹敵する資金規模にフォードの意地を見た
映画用のアレンジはそれだけではない。ル・マンで大活躍するフォードGT40の実質的設計者のエリック・ブロードレイの存在がまったく消されているのだ。
彼やGT40 のファンにとって、これは気に喰わないことのひとつと言われているが、実はさりげに登場しているのでチェックしてもらいたい。ケンの息子ピーターの部屋の棚には、ブロードレイのLolaT70レースカーのプラモデルの箱が置かれているのだ。もしかしたら。監督からのエクスキューズなのかもしれない。
そのフォードGTがスクリーンに初登場するのは、イギリスから運ばれてきたばかりの同車をシェルビーがマイルズに見せるシーン。マイルズはさっそくそのフォードGTを運転するのだが、これはGT40に変更されるまえの珍しいもので、映画ではレプリカを使っているようだ。
フォードはこのGT40の開発にとんでもない資金を投入し、その金額は当時、米国のアポロ計画と比較されるほどだったと言われている。
映画のなかでも、マイルズが奥さんに「1日200ドル+経費でオファーされた」というのだが、これを今の貨幣価値で換算すると何と1,620ドル、日本円にするとおよそ17万円。奥さんが唖然とするのも無理ない金額だったのだ。
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