■「自動車交通事故ゼロ」目指す 理想的な自動運転とは?
次に、なぜTRIがスープラを派手にドリフトさせる研究を行う必要があるのか、という点について深堀りする。
トヨタに限らず、自動車メーカーが自動運転の研究開発を進める目的としているのが、
「自動車交通事故ゼロを目指す」ことだ。
自動車交通事故の原因は9割以上が、ドライバーの運転ミスなど人為的な要因であるという学術的な研究結果がある。その上で、クルマの運転を要素解析すると、認知・判断・操作という大きく3つのパートに分かれている、と説明されることが多い。
認知とは、主に視覚で、さらに聴覚も関係してくる。この領域について、クルマ側の技術として近年量産化されているが、カメラによる画像認識や、レーザーやレーダーなどによる物体の位置や形状の認識だ。
判断については、一般的にアルゴリズムという用語が使われる。認識した画像が自車の走行に対してどのような影響を及ぼすのか、現状を把握し、さらにこれから起こり得るであろう近い未来を予測する。人間はこれを、日常的な経験の積み重ねのなかで自覚することなく行っている。こうした状況判断をソフトウエアのシステムを作動させるための基盤の考え方として設定することが、アルゴリズムだ。
そして、認知、判断したあとに具体的な運転操作を行うことになる。
この運転操作について、これまで多くの自動車メーカーが研究開発してきた考え方は、
予防安全としてリスクを軽減させる方向を最優先してきた。それが、完全自動運転だけではなく、ADAS(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム:高度な運転支援装置)だ。自動運転レベルでは、レベル1とレベル2が主体であり、すでに量産化が進んでいる。
例えばスバルの次世代アイサイトのオプション機能であるアイサイトXでは、高速道路上のカーブ走行速度を、地図情報と衛星測位システムによる自車位置を把握した上で、スバルが設定したアルゴリズムの中で自動的に速度を抑える。
このように、これまでの自動運転技術やADAS技術は、事故発生の要因となる状況に陥らないための予防的措置なのだ。
■トヨタが目指す 攻めの自動運転?
一方、TRIが今回示したスープラドリフトによる自動運転技術は、いわば「攻めの自動運転」だ。
攻めるといっても、レースなどでタイムや順位を競うために攻めるのではなく、クルマの動きに対して積極的に自動運転技術が介入するという意味だ。TRIとスタンフォード大学が研究目的としているのは、クルマがコントロールを失ったあとでの危険回避だ。
一般的に、クルマがコントロールを失うとは、クルマ側の故障よりも、ドライバーの運転技術や技量がクルマの過度な動きに対して、お手上げ状態になってしまうパニック状態のことだ。
例えば、雪道など滑りやすい路面で、トラクションコントロールやスタビリティコントロール機能が装着されたクルマでも、速度が高い状態やブラックアイスバーンなどでは、クルマのリアが大きく振れる、ドリフト状態に陥ることがある。
こうした状況になった場合でも、例えばプロフェッショナルドライバーならば、認知・判断後の操作を高い次元でこなすことで、事故を回避、または事故のダメージを最小限度に抑えることができると考えられる。
こうした高度な運転操作を、自動運転に取り入れたのが、今回のスープラドリフトである。
映像だけ見ると、エンターテインメント性が強く「なぜ、トヨタがいま、こんなことを?」と思う人がいるかもしれないが、発想としては、その逆だ。自動運転技術の本格的な量産化が進むいまだからこそ、トヨタとしてここまでやる、ということだ。
こうした技術がいつ、どのように量産されるのか、今後のトヨタの動向を注視したいと思う。
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