■NV200タクシーへ業界からのさまざまな声
ユーザーの立場では、NV200タクシーの廃止をどのように見ているのか。タクシー会社に尋ねると以下のように返答された。
「NV200タクシーは、アメリカなど海外にも導入されたが、少なくとも日本では時期が早すぎたと思う。当時のタクシーは、日産『セドリック』、トヨタ『クラウンセダン』『クラウンコンフォート』などのセダンボディが圧倒的だったから、背の高い商用車ベースのタクシーには違和感が伴った」
「天井に社名表示灯を装着していても、お客様がなかなか手を挙げてくれない。停車するとセダンと違うので料金が高いのではないかと疑われたり、乗車を断わられることもあった。床の位置が高いので、乗り降りがしにくいと指摘されたこともある。それでもセダンに比べて背の高いトヨタ『JPNタクシー』の導入後に、日産が『NV200タクシー』を発売していたら、ある程度は人気を高められたかもしれない」
JPNタクシーの全高は1750mm、NV200タクシーは1860mmだ。セダンがタクシーの中心だった時代に、NV200タクシーが導入されたので、確かに突出して背が高い印象を受けた。それがJPNタクシーが増えた今では、印象も違っている。
またNV200は商用車だから、床を平らに仕上げている。そのために床の位置が高い。電動で収納されるサイドステップ(小さな階段)を設定したが、床の低いセダンに比べると前述の通り乗り降りしにくい。ドライバーの評判はどうだったのか。
「当時のセダンに比べると、NV200タクシーは高い位置に座っている感覚があった。周囲の見晴らしはいいが、高速道路に乗り入れた時などの安定感は少し下がる。ドライバーから聞かれる乗り心地の評判もあまりよくなかった。そのためにコロナ禍の影響で、営業している車両の数を抑えた時は、まず最初にNV200タクシーの稼働率が下がった」
NV200タクシーは商用車がベースだから、足まわりに変更を加えたものの、乗り心地はよくない。1390kgのボディに基本設計の古い1.6Lエンジンを搭載するから、ノイズも高まりやすい。確かに快適なタクシーではなかった。
それなら逆に、NV200タクシーのメリットは何だったのか。この点もタクシー会社に尋ねた。
「お客様が座る後席の足元空間がかなり広く、手荷物などを置きやすかった。後席は座る位置も高いので、周囲の見晴らしもよかった」
NV200タクシーには車内が広いなどのメリットもあった。ただし商用車がベースだから、ノイズや振動といった快適性の面において、旅客運送業に使われる車両には馴染まない。乗降性もよくないため、JPNタクシーに押されたのは仕方ない話であった。
タクシーは公共性の高い交通機関だが、顧客が手を挙げて車両を停車させ、ドライバーと自分の占有空間において移動する。また一般の公共交通機関では、あらかじめ決められた目的地やルートの中から顧客が系統を選ぶが、タクシーでは顧客が自分で目的地とルートを決められる。
いわばタクシーは、顧客の思い通りに運行される贅沢な乗り物だから、乗車料金も移動距離の割に高い。そうなれば顧客が「内外装や乗り心地がなるべく上質なタクシーに乗りたい」と考えるのは当然だ。
ちなみにJPNタクシーの上級グレード「匠」には、メッキグリルやメタリック塗装のホイールキャップが装着され、内外装を相応に満足できる質感に仕上げた。NV200タクシーが生産を終えた経緯の本質は、「バスや電車とタクシーの違い」に対する解釈の仕方にあったと思う。
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