クリーンディーゼルとして脚光浴びるも、電動化急加速でふたたび暗転。ディーゼルエンジンの悲劇とこれから待ち受ける運命とは?
2000年に入って、ディーゼルターボエンジンが市場の半分近くを占めてきた欧州で、いまディーゼルエンジンへの逆風が吹いている。そして欧州自動車メーカーは、電気自動車(EV)への転換を急いでいる。
一方、その欧州から日本市場へディーゼルエンジン車が数多く輸入され、人気を得ている。日本メーカーでは、マツダが過去10年近くディーゼルエンジンに力を注いできた。
かつて、日本でのディーゼルエンジンは、走るうえで大きな力を必要とするトラック/バスを中心に普及し、悪路走破を主な狙いとした本格的4輪駆動車などの乗用でも一部採用されてきた経緯がある。
しかし、大気汚染という環境問題から、1999年に東京都が実施した「ディーゼル車NO作戦」を契機に、とくに乗用でのディーゼル車は一時姿を消すことになった。
一方、先に述べたように欧州ではそのころからディーゼル車の販売に力を注がれたため、日本へも輸出できないかと摸索が行われてきた。
そこに、マツダがSKYACTIV-Dとして新世代商品群第1弾となるCX-5でディーゼルエンジン車の販売を2012年から推し進めたのを契機に、輸入車も含めディーゼル車販売が活気を帯びたのであった。
文/御堀直嗣 写真/MAZDA、PSA、MITSUBISHI、AdobeStock
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日本では「悪者」のレッテルも貼られたディーゼルエンジンの長短
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと異なり低い温度で着火する軽油を燃料に使い、空気が圧縮され熱を持つことで自己着火することで稼働する。このため、圧縮比を高く設定でき、仕事の効率が高い。すなわち燃費がよいエンジンとされてきた。その圧縮比は、ガソリンエンジンのおよそ2倍であった。
大きな力を出せる理由は、燃料の着火を点火装置による1点から火炎を広げるのではなく、自己着火により燃焼室全体で燃焼をはじめるため排気量を大きくできるからだ。大排気量とすることでトラック/バスや、船舶のエンジンとして普及している。
乗用車用へは、トラック/バスほど大排気量エンジンにはできないが、ターボチャージャーにより過給することで、あたかも大排気量エンジンを搭載したかのような力を発揮させることができる。もちろん、トラック/バスも高速化するにしたがい、ターボエンジンが当たり前になっている。
圧縮比が高く、自己着火させることにより、燃焼温度が高くなるので、ディーゼルエンジンは排出ガスに含まれる有害物質では窒素酸化物(NOx)の排出が多い傾向になる。また、自己着火のため、燃え切らない燃料成分もあり、これが炭化水素(HC)や粒子状物質(PM)として排出される。
ガソリンエンジンは、三元触媒によりNOxを還元し、HCと一酸化炭素(CO)を酸化する化学反応を同時に行い、排出ガス浄化をしている。
一方、ディーゼルエンジンは、酸化触媒とNOx触媒を使って、排出ガス浄化をおこなってきた。そしてよりよい燃焼をさせることで、燃料の燃え残りであるPMを減らすことをおこなっていた。
それでも、発進・加速ではより大きな力を必要とするので燃料が濃くなり、黒煙を排出するということが起こる。
東京都のディーゼル車NO作戦により、PMの排出をさらに少なくする必要が出て、ディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)の装着が義務付けられるようになった。そしてクリーンディーゼルと呼ばれる時代が動き出す。
日本がガソリン・ハイブリッド車の開発に努めたのに対し、欧州では部品点数が増えることを嫌い、従来からのディーゼル車の燃費のよさをもとに二酸化炭素(CO2)排出を抑えようとした。
その結果、もともと小型車を中心に市場の20%ほどをしめていたディーゼルエンジン車が、一気に50%を占めるようになり、国によってはそれ以上のディーゼル車の普及となった。
しかし、当時の排出ガス規制は、今日の「ユーロ6」より緩やかな内容であり、それによってディーゼル車の台数が増加するとともにNOxの排出が増え、スモッグによる大気汚染が起こったのである。
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