トヨタは全チャネル併売を開始し、車種整理に余念がない。しかし、併売前の4チャネル体制時には、兄弟車も含め、数多くの新型車を世に送り出してきた。販売実績が芳しくなく、一代限りで消えていったクルマも多いが、ユーザーや販売店の記憶に残るクルマは多くある。
今回は、元トヨタディーラー営業マンの筆者が、販売記録は残さなかったものの、人々の記憶に残り、販売現場で話題に上がったクルマを紹介していく。
文/佐々木亘 写真/TOYOTA、編集部
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■iQ
全長2985mmと軽自動車より40cmほど短く、セカンドカーとして検討されることが多かったiQ。乗車定員は4名だが、リアシートに大人が乗るのは、かなり厳しいクルマだった。
軽自動車では何だか不安だからと、奥様や大学生の子どものためにiQを求めに来る。興味関心をそそるクルマなのだが、実際にiQと対峙すると、「これなら軽でもいいか」か「ヴィッツを買うか」のどちらかに転がり、iQは買われないことが多かった。
エクステリアデザインは評判がよく、中古車展示場にiQがあると、必ずと言っていいほど、「このクルマ見せてください」と声がかかる。しかし、ドアを開けて乗り込みエンジンをかけたところで、途端に購入熱が冷めていくのがわかってしまう。
日本ではなじみの薄いマイクロカーとしての存在が、乗り手を選ぶクルマだったようにも思える。ガソリンエンジンではなく、電気自動車でデビューしていたら、評価が大きく変わっていたかもしれない。
■SAI
2009年に、プリウスに次いでハイブリット専用車として販売されたSAI。
トヨタ全チャネルで取り扱い、各チャネルにおける、セダンの泣き所をしっかりと埋めてくれる存在だった。クラウンの下、カムリの少し上のような立ち位置が、特に高級セダンを専売車として持たない、カローラ店やネッツ店で好意的に受け入れられる。
しかし、トヨタには、各チャネルに代表的なセダンがあり(トヨタ店・クラウン、トヨペット店・マークX、カローラ店・カローラ)、知名度が伸びなかった。
全高が高く、室内の居住性が高いセダンであったが、それゆえにワンモーションフォルムのエクステリアとなる。綺麗な3ボックスセダンとは言い難く、上級セダンとしての格式を持てなかったように思う。
販売側にとっては、提案できる客層が広く、使い勝手のいいクルマであった。デビュー当初は人気も高く、ユーザーの反応も悪くないクルマだったが、最終的には名とおったセダンに競り負ける。
SAIは、性能が足りないわけではなく、ネームバリューで負けてしまい、契約につながらなかったクルマのひとつだ。フルモデルチェンジは一度もなく、マイナーチェンジ1回限りで2017年にドロップアウトした。
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