モデルチェンジを経て改良後も販売台数は伸び悩む
2009年、「Smart Multi Player WISH」をテーマに掲げ、ウィッシュはフルモデルチェンジをおこなった。機能性を高め、マルチプレイヤーを目指したウィッシュは、機能性の拡充とは裏腹に、段々と人気を落としていく。
特にウィッシュが大きく人気を下げることになるのは、2012年のマイナーチェンジ後だ。このマイナーチェンジでグレード体系の見直しを図り、自身の武器である5ナンバーグレードを減らししまう。
初代で年間15万台あった販売台数は、年々減少し、2代目の登場時には6万台、マイナーチェンジ時には4万台を切る。追い打ちをかけるように2015年にはシエンタがモデルチェンジを行う。これにより、もうひとつの武器である価格の安さが失われた。
最廉価184万円のウィッシュは、決して高すぎるわけではないが、さらにお得感を感じるシエンタには太刀打ちができなくなる。この時期には販売台数が年間1万5000台を割り込む。
こうして、右肩下がりの人気を復活させることなく、2017年に生産終了を迎える。自ら武器をなくし、同門ライバルに引導を渡されたウィッシュ。この凋落は、背の低いミニバンの終焉を告げるカウントダウンにもなっていたのだろう。
ウィッシュは自ら武器を手放した?
2021年3月にプリウスαがドロップし、トヨタから背の低いミニバンが姿を消した。他メーカーを見回しても、5ナンバーサイズで背の低いミニバンは、もう見当たらない。
時代の流れで、背の低いミニバン自体が廃れてしまい、SUVに取って代わられたと言ってしまえばそれまでだ。しかし、廃れてしまった要因は、市場動向だけでなく、クルマ側にもあったのではないだろうか。
ウィッシュに求められたのは、背の低さと引き算から生まれる価格の安さだったと思う。3列目の居住性や、背伸びができる頭上空間などは求められていない。背が低いことと、安いことを徹底的に磨き上げていたら、ウィッシュにも生き延びる術があっただろう。
保管場所や道路事情により、保有するクルマのサイズ、特に幅と高さに制限を受けるユーザーが多い日本の自動車市場。背の低いミニバンは、制限を受けるユーザーにとっても、優れたパッケージングのクルマだった。
背の低いミニバンを、まだ必要としているユーザーは一定数いるはずだ。その多くは、新車で買い替えるクルマが見つからず、彷徨い続けている。ウィッシュがもし、価格とボディ形状にこだわって、開発を続ければ3列シートステーションワゴンといった、新カテゴリーで生き残れたのではないだろうかと考えてしまう。
カテゴリーの常識を覆すクルマが、長く生き残るためには、初期に見つけた己の武器をしっかりと認識することだ。ウィッシュは自ら武器を手放し凋落した。
スタイリッシュという面はSUVに受け継がれたが、パッケージングはどうだろう。背の低いミニバンが生み出したパッケージング力は、現代のクルマにも充分生かせる。
ウィッシュを復活とは言えないだろうが、ミニバンやSUVといった背の高いクルマだけでなく、パッケージングに優れた背の低いクルマを、もう一度作ってほしい。
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