■スカイアクティブXは燃費の良い領域が広いのも特徴
スカイアクティブX開発者の1人であるマツダ・パワートレイン開発本部エンジン性能開発部マネージャー・末岡賢也氏にそのあたりを聞いてみた。
「スカイアクティブXは燃費の目玉の領域が広いので、エンジン回転を落とす必要がないんです」(末岡氏)。
「燃費の目玉」とは、BSFC(正味燃料消費率)における効率の良い領域のことで、エンジンの許容回転数域の中で熱効率の高い部分だ。
エンジンはその特性上、一定の回転数帯である程度の負荷がかかった状態(つまりトルクを出している状態)が最も燃料の消費率が高くなる。それは燃料の熱エネルギーの多くを駆動力に変換できている、ということだ。
しかし回転が上昇するとトルクが落ちてくるエンジンは、加速中には負荷が大きくなってくるので燃料をたくさん送り込んでパワーを出す(トルクを出す燃焼の回数を増やす)ことになるから燃費が悪くなる。
損失が大きいエンジンは加速中ではなくても、中回転域を維持するだけで燃料を消費してしまう。
ところがスカイアクティブXは中回転域でもトルクを出しながら燃焼が出来ているだけでなく、前述の通りSPCCIとEGRなどを組み合せることでトルクが小さい状態でも熱効率が高い。結果として回転を上昇させても、極端に燃費を悪化させないのだ。
理屈のうえでは確かにそうだが、エンジン回転は燃焼回数と直結するから、燃焼回数を減らした方が実燃費は伸びるのではないだろうか。
ドイツ製のディーゼル車が高速巡航で軒並み好燃費をマークするのも、レシカバ(レシオカバレッジ=変速比幅)の高さから巡航時のエンジン回転数を大きく落とすことができるためだ。
伝達効率が低いCVTの実燃費が高いのは、伝達ロスを含めてもレシカバの広さからエンジン回転数を落とすことができるからで、昨今の走行抵抗の低いクルマにとって、高速巡航時の燃費を向上させるには、巡航時のエンジン回転数を下げることは効果テキメンなハズなのだ。
マツダの開発陣は誰もがエンジン好きでクルマ好き、MTをほとんどの車種に設定していることからも、高速燃費よりドライビングの楽しさを優先しているような雰囲気も感じ取れる。
しかし、今や従来のクルマ好きは極めて少数派で、ADAS(先進運転支援システム)などの新技術や燃費性能を購入時の優先事項にしているユーザーにスカイアクティブXを受け入れてもらわなければ、スズキのフルハイブリッドのように廃れてしまう可能性も出てくる。
■マイルドハイブリッドの活用で巡航時のエンジン回転を下げよ
そこで現状のパッケージングでスカイアクティブXの燃費をもっと向上させられないか、勝手にこちらで考えてみよう。まずはファイナルや変速比の見直しだ。
6速ATで6速をオーバードライブ的に使うことにより、高速巡航時の回転数を落とすことはできるが、そうなると5速とのつながりは悪くなり、高速走行時の加速でキックダウン時にショックが大きくなったり、もたつく可能性が出てくる。
しかしそこはマイルドハイブリッドをシフトアップ時のトルク不足に使うことで解決できないだろうか。
マイルドハイブリッドのアシストをより強力に使って、あのスポーティな加速フィールを維持したまま、さらに各ギアの変速比の差であるステップ比を大きくして、全域でエンジン回転数を一定数落とすこともできるのではないか。
そうでなければ、やはり8速ATを開発する、あるいは外部から調達してくることで搭載するしか手はなさそうだ。
MAZDA2など軽量コンパクトな車体では6速ATでもまだ十分に戦えるが、マツダ3以上の車格は8速以上の多段ATを搭載して、燃費性能を高めなければせっかくのエンジンがもったいないとさえ思えるのだ。
スカイアクティブXはスーパーリーンバーンの領域でも、理論上は今の1.5倍程度はトルクを引き出すことができると見込まれている。
そうなればマイルドハイブリッド自体が不要になって、価格が下がるかもしれない。だが、まずはストイキSPCCIモードで高速巡航した時に、エンジン回転数を落とすことで、高速燃費を高めて全体を引き上げると共に、ユーザーに高速燃費の高さを実感してもらうことが大事ではないだろうか。
同じことはスカイアクティブDについてもいえる。先日のアップデートで、エンジン特性が改善され、ピークパワーの向上だけでなく、加速フィールが大幅にスポーティになった。
そもそもピークパワーなど数字上のものでしかなく、実際に重要なのはそこへ到達するまでのトルク特性なのだが、現在のスカイアクティブDは伸びやかな加速感で段違いにスポーティな走りを楽しめるものになっている。
しかし、そもそもディーゼルを選ぶ層は、こうした加速フィールは優先度はそれほど高くないことが想像できる。
エンジンの燃焼によって起こるビート感やトルクの盛り上がり、伸びやかな加速は魅力だが、それを訴えて響くユーザーにだけ買ってもらえばいいというのでは絶対数が少な過ぎる。駆動系に手を入れることが、マツダのエンジンの良さをより活かす手段となるハズだ。
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