■自転車の重大事故につながっている法令違反とは?
では報告書での指摘の2点目、対自動車の死亡・重傷事故のうち約7割には自転車側にも法令違反が認められること、という点を見てみよう。
以下は令和2年の自転車の対自動車での死亡重傷事故がどのような時に起こったのか、その時に自動車・自転車はどのような法令違反を犯していたのかを示すグラフだ。
これを見ると出会い頭での衝突が死亡重傷事故の55%と非常に大きな割合を占めることがわかる。右左折時衝突の28%を合わせると交差点での事故が死亡重傷事故の8割を超える。
出会い頭衝突で自転車側に法令違反が認められたケースで最も多いのが安全不確認(22%)、その次が交差点安全進行義務違反(16%)、一時不停止(16%)となっていてこの3要因だけで半数を、信号無視(7%)を加えると6割を超える。
安全不確認、一時不停止、信号無視は読んで字のごとくだが、交差点安全進行義務違反とは「交差点を通行するときに狭い道から広い道に出る時には広い道を通行する車両を優先させる、状況に応じてできるだけ安全な速度と方法で進行する」義務などに違反したということだ。
したがって重大事故に直結する自転車の交通ルール違反である交差点での安全確認、一時停止、信号無視を重点的に取り締まり、少額違反金を課すというのは理にかなっている。
だが本当に実効性のある自転車による重大事故の抑止は、高齢自転車運転者の違反を減らすことにある。以下のグラフは過去6年で自転車乗用中に亡くなった方の年齢層を示している。
令和2年のデータを見ると、自転車乗用中に亡くなった人の実に76.8%が60歳以上の方だ(グラフで灰色の部分)。「高齢者」と区分される65歳以上の人の割合で見ると70.2%となる。この部分を減らすことが自転車による重大事故を減らすことに直結する。
自転車乗用中の高齢者が死亡する事故はどのようなケースが多いのか、令和2年中の交通死亡事故の発生状況から見てみよう。特に目立つものに関してはハイライトしてある。
まず自転車乗用中の死者(全年齢)のうちおよそ8割が何らかの法令違反をしていた。これを65歳以上の高齢者に限ると死者の約85%が法令違反をしていた。
高齢者の死亡事故の法令違反で一番多いのは安全運転義務違反のうちのハンドル操作、次に安全不確認、つまり「ハンドル操作を誤った」「周りの安全を確認しなかった」というもの。高齢者以外と比べると圧倒的に多い。また先ほど見た交差点安全進行、一時不停止、信号無視も目立つ。
■自転車が狙い撃ちになっているのには「オトナの事情」がある?
ここまで見てきて、もし自転車による重大事故を減らすための本当に実効性のある対策を取りたいのであれば、まずは「高齢者への自転車の安全運転教習/講習」、次に「全年齢への交差点事故への注意喚起、具体的には一時停止違反と信号無視の取り締まり」が最も効果的だということが分かっただろう。
ではなぜ違反金制度の導入が先に叫ばれるのだろうか。ゲスの勘繰りと一笑に付されるかもしれないが、「オトナの事情」が見え隠れする。それは何かというと、クルマやバイクの交通違反による反則金の収入が近年大幅に減少していて、それを埋め合わせる何らかの収入が必要とされているのではないか、ということだ。
こちらが交通安全対策特別交付金勘定、国にとっての交通反則金の収入の推移だ。ずっと減少傾向があることが見て取れる。
クルマやバイクで交通違反で検挙されると反則金を支払うことで刑事罰を受けることを免除してもらえる。そのわれわれが払った反則金が(私は幸運にも?最近払っていませんが)まず国の一般会計に入り、「交通安全対策特別交付金特別勘定」に繰り入れられ、毎年交通事故の発生件数や人口の集中度などを考慮して都道府県や市区町村、道路設置者に支払われる。
そして信号機や道路標識の整備、横断歩道橋や歩道の設置や補修など道路における安全施設の設置と管理などに要する費用に充てられる。
その額が上記グラフからもお分かりの通りこの数年で100億円以上減少してしまっているので、何らかの穴埋めが必要になり、そのために自転車への少額違反金制度が創設されるのではないかと勘繰ってしまう。
以上、今回新たに提案された自転車への少額違反金制度の内容と直近の自転車の交通ルール違反・事故原因の傾向を見てきた。
自転車も含めて交通事故による犠牲者を減らす対策がとられることには心から賛成したいが、自転車への少額違反金制度が仮にできるとすれば不公平感のない制度設計と運用を求めたい。
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