自転車に少額違反金導入!? 14歳以上が対象!? 警察庁が新たな制度を検討へ

■違反金制度の導入の背景

急速に増えてきた自転車専用通行帯。もちろん逆走は違反だ。手前の自転車は自転車ナビマーク、奥の青い矢印は自転車ナビライン。矢印の向きに走行し、逆走はできない
急速に増えてきた自転車専用通行帯。もちろん逆走は違反だ。手前の自転車は自転車ナビマーク、奥の青い矢印は自転車ナビライン。矢印の向きに走行し、逆走はできない

 ではなぜ違反金制度の導入が検討されるようになったのだろうか。

 報告書では自転車に対する取り締まり強化と少額違反金の導入の根拠として、近年自転車事故の死亡・重傷事故全体に占める割合が増加傾向にあること、対自動車の死亡・重傷事故のうち約7割には自転車側にも法令違反が認められること、自転車による危険な歩道通行も大きな問題となっていることが指摘され、以下のように書かれている。

 「(略)良好な交通秩序を実現するためには、交通ルールの策定のみならず、その徹底方策も重要であり、特に、安全教育の推進と指導取締りは、車の両輪として推進することが適切であると考えられ、引き続き、危険な運転者に対する取締りを推進すべきである」。

 「他方、自転車の違反に対する刑罰的な責任追及が著しく不十分なものにとどまっている状況を踏まえれば、指導取締りについては、刑罰に代わる少額の違反金を課すなど、非刑罰的な手法も含め、違反の抑止のために実効性のある方法を検討すべきである」。

 噛み砕いていうと、「これまでルールは作ったが徹底されておらず、積極的に指導取り締まりを行わなければならない、そして違反しても実質罰せられないことで違反が放置されているので違反抑止のためには実効性のある違反金制度の導入が必要である」ということ。

 さらに「現状、自転車ユーザーのマナーは非常に悪く、正しく使われていない上、十分な取締りもできていない」と自転車ユーザーや取り締まりを行う当局の姿勢にかなり厳しい意見が出されている。

 この状況を是正するためには自転車の少額違反金の導入が必要だ、というのが有識者検討会の声を借りた警察の意向なのだろう。

■自転車による交通ルール違反や重大事故は増えているのか?

スマホの普及とともに、歩きスマホや自転車スマホが目立ってきた(AdobeStock@izf)
スマホの普及とともに、歩きスマホや自転車スマホが目立ってきた(AdobeStock@izf)

 確かにコロナ禍で公共交通機関による移動を避ける人が増えたせいか最近自転車の交通量が増え、それに伴って交通マナーの悪い自転車も増えて体感的に交通治安は悪化している気がするが、実際に自転車による交通ルール違反や事故は増えているのだろうかまず検証してみたい。

 以下のグラフが自転車の交通指導警告数と検挙数のグラフになる。指導警告数は一番多かった平成24年対比で令和2年には100万件以上減少していることがわかる。

 最近危険な自転車が増えたのであれば積極的に指導警告が行われてもいいはずなのだが、なぜか交通指導警告数、つまり取り締まり件数は8年で約4割も減少し、直近数年間でも横ばい。不可解だ。

 反対に近年は自転車による交通違反に対する指導取り締まりが積極的に行われており、検挙件数は増加傾向にある。

 ただし自転車による道路交通法違反で検挙されたもののうち起訴されるのはわずか1〜2%に過ぎず、報告書に指摘されていたように違反をしても責任が追及されることは実質ほとんどなかったと言ってもいい状況にあった。

 この背景には検察庁が自転車による道路交通法違反に関しては刑罰を課すに値せずと考えており、原則として起訴しない方針があったとも言われている。

 クルマやバイクで信号無視や一時停止違反、無灯火運転をしても青切符で行政処分で済むのに、同じ違反でも自転車なら行政処分でなく刑事罰で道路交通法違反の前科がつく、というのは法の下の平等に反するように思われるので、検察の考え方はある意味市民感情に沿った対応だと言えるかもしれない。

令和2年には自転車の交通ルール違反に対する指導警告件数143万件に対して実際の検挙件数は2.5万件ほどと2%以下にとどまる (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書)
令和2年には自転車の交通ルール違反に対する指導警告件数143万件に対して実際の検挙件数は2.5万件ほどと2%以下にとどまる (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書)

 重大事故の中に占める自転車の割合が増加傾向にある、という指摘に関して報告書には以下のグラフが掲げられている。

このグラフではいかにも自転車関連の死亡重傷事故が急増しているために厳しい抑止のための方策が必要に見えるのだが… (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書)
このグラフではいかにも自転車関連の死亡重傷事故が急増しているために厳しい抑止のための方策が必要に見えるのだが… (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書)

 上のグラフの赤線を見て「あ、自転車関連の死亡重傷事故の割合が急増しているから取り締まりが厳しくなって少額反則金が導入されても仕方がない」と思ったあなた、筆者が全く同じデータから作った次のグラフを見てください。

 死亡・重傷事故数を全体とそのうちの自転車関連に分けて平成27年の事故件数を100として指数化し、右軸の自転車の割合の最大値と最小値を変更した。

先ほどのグラフと同じデータだがこうやって見ると自転車関連の重大事故も大きく減っていることが見て分かる (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書より筆者作成)
先ほどのグラフと同じデータだがこうやって見ると自転車関連の重大事故も大きく減っていることが見て分かる (出典:警察庁「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」中間報告書より筆者作成)

 これを見たらやや印象が変わったはず。自転車関連の死亡・重傷事故件数(オレンジ)は平成27年から令和2年までの間に大幅に減少していることがよくわかる(100→76.8、約23%減)。

 ただし全体(青)もより大きく減少しているため(約29%減)、自転車関連の割合(赤)がわずかに上昇してしまっている(23.1%→24.9%)。

 つまり自転車の重大事故は大きく減少しているが、全体よりも若干少ない減少幅にとどまっているということだ。

 もう一つ、交通事故の状態別死者数・重傷者数の推移のデータを見てみよう。このデータは先ほどの事故「件数」ベースのデータと異なり「死者・重傷者数」ベースになる。

 こちらを見ると交通事故による死者・重傷者に占める自転車の割合は平成27年の21.1%から令和2年には22.5%と微増していることが分かる。

 同時期には交通事故全体の死者・重傷者合計が43,076人から30,613人に29%減少している。その中で自動車乗用中の死者・重傷者合計の減少率が大きかった(28.1%→25.8%)ために、自転車・歩行者・二輪車の割合が増加しているのが見て取れる。

この6年で交通事故の死者・重症者のうち自動車乗用中の人の占める割合は2.3%減少、自転車乗用中の人の割合は1.4%増加、ただし死者・重傷者数そのものは1万2千人以上、率にして3割減少している (出典:警察庁交通局「令和2年における交通事故の発生状況等について 1-2 交通事故死者数・重傷者数の推移」より筆者作成)
この6年で交通事故の死者・重症者のうち自動車乗用中の人の占める割合は2.3%減少、自転車乗用中の人の割合は1.4%増加、ただし死者・重傷者数そのものは1万2千人以上、率にして3割減少している (出典:警察庁交通局「令和2年における交通事故の発生状況等について 1-2 交通事故死者数・重傷者数の推移」より筆者作成)

 わずか6年で交通事故の死者・重傷者数が3割も減った最大の原因は自動車の安全技術の向上。全ての人にとって素晴らしいことだ。

 そしてその恩恵を現状一番受けているのが自動車のドライバーで、その他の交通手段を用いる人がややそれに遅れているというのが正しいデータの読み取り方だろう。自転車の事故が突出して増えているわけではないことがこちらのデータからも見て取れる。

 つまり自転車の交通指導取り締まり件数は増えているものの、実際には自転車だけが突出して事故を多く引き起こしているという訳ではないということだ。

次ページは : ■自転車の重大事故につながっている法令違反とは?

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