どこまでできる? やってはいけないクルマのセルフメンテナンス!

サスペンション関係

サスペンションの交換はプロに任せよう(Adobe Stock@sarawutnirothon)
サスペンションの交換はプロに任せよう(Adobe Stock@sarawutnirothon)

 一般的なクルマの関節部分にはゴムブッシュが多用されているが、これも経年劣化によってステアリングにガタや異音が生じたり、タイヤの編摩耗などを引き起こしたりするのできちんと交換、整備しておきたい。

 ブッシュの交換には圧入機が必要だったり、アームやロッドを交換した場合にはトーやキャンバーなどアライメントの調整が必要になるので、ここも素直にプロにお任せしたほうが間違いない。

 ショック交換くらい自分でできるだろうと思っていても、とくに最近のクルマではお勧めしない。その理由は、近年、標準装備化が進むADAS(Advanced Driver-Assistance System=先進運転支援システム)にある。仮に自分の愛車にこれら先進装備がついていたら、むやみに車高を下げてはいけない。

 車両の先端にあるレーダーやセンサーの初期値(新車時のゼロ設定値)に誤差が生じ、いざと言う時、ADASが正しく作動しない、あるいは警告灯が点灯する恐れがあるからだ。

自分でできるところに落とし穴あり!

バッテリー上がりも頻繁に起きるので日頃から自分でチェックしておきたい
バッテリー上がりも頻繁に起きるので日頃から自分でチェックしておきたい
日常点検と整備については法令(道路運送車両法:第47条の2)でユーザーの義務であると規定されている。具体的にどこをどのように点検するのかについては国土交通省のホームページを参照。点検箇所は15項目あり誰もができるもの
日常点検と整備については法令(道路運送車両法:第47条の2)でユーザーの義務であると規定されている。具体的にどこをどのように点検するのかについては国土交通省のホームページを参照。点検箇所は15項目あり誰もができるもの

自動車の点検整備ついて詳細に解説している国土交通省のホームページ

 セルフメンテナンス15項目のなかでも気をつけるに越したことのないポイントはたくさんある。そのいくつかを具体的に見ていこう。

■タイヤ関連

ホイールの受け部、テーパー型のボルトホール
ホイールの受け部、テーパー型のボルトホール

 季節ごとのタイヤ交換で慣れている人でも正しくローテーションしないとその効果を発揮できない。FFと4WDではローテーションの順序が異なる。

 高性能タイヤなら回転方向にも要注意だ。そして意外な盲点がボルトの締付け。小嶋社長は「正しいボルトを使うこと」だと指摘する。ボルトの受け部にはテーパー型やラウンド型など数種類ある。ネジのピッチが合って締まるから大丈夫ではない。

 2つ目は「適正な取付手順」だという。「まず対角線の2本を手できちんと締め込んだ後、トルクレンチで締めるよ」ということだ。

 そして最後が「正しい締付トルク(レンチの使い方)」だと言う。たまにトルクレンチを勢いよく「カチカチ」何回も鳴らす人を見かけるが、基本的にこれはNG。1回「カチッ」と鳴ったトコが設定トルクなので、その後何回も「カチカチ」鳴らして締めてはいけない。

 小嶋社長も「オレ達プロは1回締め込んだ後、確認という意味でもう1回締めることがあるけど、力加減が重要なんだよね」と、再びハードルが高いプロの技がさく裂。この3つが疎かだとホイールにガタが生じるだけでなく、最悪の場合はホイールが外れることもあるというので要注意だ。

ホイールのボルトの締め付け方にもプロの技がある
ホイールのボルトの締め付け方にもプロの技がある
タイヤの位置交換(ローテーション)とアライメント、タイヤの点検・整備(出典:ブリヂストン)
タイヤの位置交換(ローテーション)とアライメント、タイヤの点検・整備(出典:ブリヂストン)


■冷却液

 熱変化が激しい冷却液も立派な消耗品だ。国内の大手自動車メーカーによれば、新車なら16万kmまたは7年、2回目以降は8万kmまたは4年(距離と年数のいずれか早い方)での交換を推奨している。

 一方、ラジエターキャップも「消耗部品」であることはあまり認識されていない。加圧弁と負圧弁で構成されるキャップは、冷却水の漏れを防ぐだけでなく、加圧することで沸騰温度を上げ、冷却空気との温度差を保つことでラジエターの放熱効果を高めている。

 最近ではリザーバータンク付きの車両が主流になり、キャップを外す機会は少なくなったが、1000円程度の部品なので長年放置することなく、車検毎に交換すれば、冷却水トラブルを未然に防げるので実践したい。

■バルブ交換

ポルシェの4灯式LEDヘッドランプ
ポルシェの4灯式LEDヘッドランプ

 少ない消費電力で高輝度なLEDバルブは、夜間の視認性が良くなるだけでなく、オルタネーターやバッテリーへの負担も軽減できるメリットがある。

 しかしながら、間違った取付方法や粗悪製品の場合、正しい光軸から外れて対向車にギラギラと目つぶしのような光を放ち、迷惑どころかとても危険な状態になってしまう。

自分でLEDバルブに交換した時は、夜間、壁にヘッドライトを照射して、キチンと配光パターンが出ているか確認する、あるいは車検場の近くにあるテスター屋さんで確認してもらうなど配慮したい。

 またLEDへの交換で生じる電圧降下によって点滅が早まるハイフラッシャー現象やバルブ切れと誤認して警告灯が点灯するなど思わぬ現象を引き起こす恐れがある。

 その場合の対処法は、LED化に対応したリレーに交換するかバルブの手前の配線に抵抗を入れるかのいずれかになる。ただし、電気配線の加工は、その後の車両火災などの原因にもなりかねないので推奨しない。

■電気配線   

 いまでは自分でいじることも少なくなった電気配線。「―」マイナスアースも重要だが、常時電源やイグニッション・オン電源から取る「+」プラス配線の分岐方法は要注意だ。

 多くは作業性や利便性を優先してエレクトロタップ(分岐コネクター)が重宝されているが、小嶋社長とベテラン工場長は口を揃えて「電気配線ははんだ付けが一番だな」と言い切る。

 「カシメもいい加減だと抜けるでしょ」、「ヘッドランプとか大きな電気が流れる所はいい加減に付けると熱を持って危ないんだよ」、「よくコネクターが赤茶色になってるの見たことあるでしょ、あれは危ないね」と目に見えない電気の怖さを話してくれた。

 実際、令和元年中の車両火災は3358件で、配線関係による出火は2番目に多い(99.2%:令和2年の消防白書より)のだ。それだけリスクを伴う電気配線だから、作業する場合は、適正な配線(容量)と端子による確実な結線、適切な配線の配置と固定を心がけたい。

カメムシ(エレクトロタップ)
カメムシ(エレクトロタップ)
ギボシ端子(ダブル)
ギボシ端子(ダブル)
Y型接続端子
Y型接続端子

 最後にこんなことも教えてくれた。「ネジを緩めたり、締めたりするのも気をつけてるよ」、「手に伝わってくる感覚で固いなと思ったら無理せず油を差して(浸透するまで)放っておく」、「締める時も手の感覚を頼りに慎重に締めないとね」と、これぞプロの領域の話だ。

 自分も昔、固いネジをポロリとねじ切って青くなったクチ。百戦錬磨のベテランから出た思わぬアドバイスにスイッチが入り、もっと教えてください!とお願いすると、「オイルのドレンパッキンあるでしょ。アレが張り付いてたらキレイに外して、取り付ける時はボルトにパッキンを通さないで、オイルパン側にパッキンを当てといてからボルトを締めるんだよ」。

 おぉ~、さらに興味本位で「ヒューズも年に1回、車検で交換と聞きましたが、ほんとですか?」と尋ねると、「理想的だね。電気が流れるところはすぐに電食が始まるからクリーニングするのはいいね」。「でもやりすぎるとガタが出て不具合の原因になるから気をつけてね」と教えてくれた。

 今回お世話になったオートクリニックは、新小金井街道と所沢街道が交わる交差点の近くにひっそりと佇む。その工場は外観からは計り知れない百戦錬磨の技術と深い経験を持ったベテランメカニックが腕を振るう街の自動車工場、いや、秘密基地だ。

 社長の小嶋さんはじめメカ長の手にかかれば、長年の経験と技術でものの見事に治してしまう。それもクルマ好きには堪らない職人気質の仕事だから、見ているだけでとても心地よく、静かに回るエンジン音を聴いていると「信頼」と「安心」が見えてくる。

工場内にはポルシェ911や1920~30年代(?)の英国車の姿も
工場内にはポルシェ911や1920~30年代(?)の英国車の姿も
いすゞベレットのキャブ調整をしていた
いすゞベレットのキャブ調整をしていた

 工場のなかには見たこともない往年の英国車や憧れのポルシェ911があったり、国内外の旧車から現代のクルマまで整備なら何でもこい!と言うのだから頼もしい。

 取材当日、幸いにも往年の名車「いすゞベレット」のエンジン調整をする場面に出くわした。もちろん始動はセル一発! しかも冷間始動なのにタペット音さえなく粛々と回っている。

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