AppleやGoogleはなぜ自動運転車両の製造を狙い、自分たちだけで作ることを諦めたのか?【自律自動運転の未来 第14回】

■逆にトヨタやホンダになくてAppleやGoogleが持つものは何か?

 これは「圧倒的な量を誇る情報と、その応用能力」です。

 冒頭にお伝えした通り、両社が行っているPCやスマートフォン関連に始まるハードウェアの販売は、ソフトウェアを業界標準化するための手段に過ぎません。

 ハードウェアは物理的に存在する個体、自動車メーカーでいえば車両に相当しますが、ソフトウェアは情報そのものであり、実体を物理的に掴むことはできません。手に取れる個体として実在しないからです。

 使い手が求める、欲しい答えを紡ぎ出す道具≒ソフトウェアは、個々の人間が抱く感情や思考などといった情報をすべて拾い上げ、ある目的関数に従ってそれらをすべてデータベース化していきます。

 多くの愛用者がいるスマートフォンを例に考えます。iPhoneやGoogle Pixel(いわゆる情報端末)では様々なアプリケーションソフトがダウンロード可能で、それらはユーザーのタップやテキスト入力によって求める答えに近づきます。

「IT」とは「情報技術(インフォメーション・テクノロジー)」のこと。AppleもGoogleも、情報を扱う企業であり、その量と使い方において、自動車メーカーを大きくリードする(AdobeStock@Chinnapong)
「IT」とは「情報技術(インフォメーション・テクノロジー)」のこと。AppleもGoogleも、情報を扱う企業であり、その量と使い方において、自動車メーカーを大きくリードする(AdobeStock@Chinnapong)

 また、同型の情報端末による同一アプリであっても、どんな手順でタップを行うのか、文章入力にしても読点をどこに入れて改行するのか、どんな漢字をあてがって、その操作をいつ、どこで、何の操作の後に行っているのか……、これらは人によりそれぞれ異なります。よって、こうした人の振る舞いや行動履歴そのものが、新たな情報としての価値を生み出すのです。

 皆さんご存知のように、個人を特定しないことを条件に、IT/IoT企業はたくさんの情報を日々、吸い上げています。ダウンロードしたアプリやアップデートしたOSを使うには提供側が提示する利用規則に応ずる必要がありますが、ここに情報吸い上げ許可が含まれているからです。

 もっとも、これらの情報(例/タップの順番など)は単体でみれば他人にとって大きな意味はなく、よって脅威を感じる必要はありません。

 しかし、世界規模で考えた場合、様々な場所で情報端末が使われ、言語にしても多岐に渡っており、それら一挙手一投足は膨大な情報として蓄積されていきます。

 そして、こうした情報はデータベース化されることで“生きた情報”に生まれ変わり、ソフトウェアの精度向上や新たな機能の追加など応用されていくのです。

 ひととき、メールソフトやスマートフォンなどで使われる絵文字が話題になりました。あるIT/IoT企業の調査結果によると、絵文字は世界中で使われる傾向があるものの、同じ絵文字であっても、じつは意味が異なる場合があるという興味深い結果が報じられていました。

 いうなればAppleやGoogleは、ソフトウェアで得られた生きた情報を管理するプレイヤーです。そして、生きた情報から新たなサービスや価値を生み出し、またもや自社ブランドのソフトウェアで利用者に提供しているのです。こうした錬金術に近い無限ループの活用は、これまでの自動車メーカーにはなかった手法であり、IT/IoT企業ならではの強みです。

■現時点でIT/IoT企業と自動車メーカーの関係はどうなっているのか? 

 かねてより筆者は、IT/IoT企業の発展は①人工知能、②通信環境、③HMIが鍵であると考えてきました。同時にこの3点は、自動運転技術の昇華に大きな影響を与えることから、「自動運転における三種の神器」と定め、日々注視しています。

 その意味で、IT/IoT企業と自動車メーカーとの関係はこの先、さらに密接な関係になっていくことが想像できます。

 フォルクスワーゲンは2018年6月にドイツ・ハノーファーで開催された国際情報通信技術見本市「CEBIT2018」において、ソフトウェアカンパニーの領域に踏み出すことを宣言。その象徴として、自動化レベル5を目指して開発中のSEDRICの最新シリーズである「SEDRICアクティブ」を発表しています。

VWがドイツの国際情報通信技術見本市「CEBIT2018」に出展したSEDRICの最新シリーズ
VWがドイツの国際情報通信技術見本市「CEBIT2018」に出展したSEDRICの最新シリーズ

 会場では、SEDRICアクティブの活用例として、海辺でサーフィンをする人向けのソフトウェアサービス・デモが行われました。

 人の振る舞いや行動履歴、各種情報端末からのデータを分析して、利用者がどの海岸に何時に向かうと、最高の波に出会えるのかを予測する、という内容です。

 当初、お節介な機能だなと感じましたが、移動の質向上こそMaaS本来の役目であるならば、これは十分にアリかと次第に考え方が変わりました。

SEDRICの車内モニター
SEDRICの車内モニター

 サーフボードを担いで海辺に行き、いつ来るかわからないビッグウェーブを待つより、絶妙なタイミングで自分の居場所まで迎えにきてくれて、その場に付いたらすぐに波乗りできるとなれば、時間の有効活用に結びつくからです。

SEDRICの車内前席。向き合うように後席が設置されている
SEDRICの車内前席。向き合うように後席が設置されている

 こうした「移動の質」の向上、時間の有効活用には過去に蓄積したビッグデータのあり方と、その活用方法が重要です。また、個人向けにカスタマイズされた情報を、テキストや音声で伝えるタイミングや、情報そのもの統合させたプラットフォームを用いて手元のスマートフォンに送信する技術も不可欠。

 ということからも、IT/IoT企業と自動車メーカーが密になるという流れは極めて自然な流れです。

 本稿のタイトル、「AppleやGoogleはなぜ自動運転車両の製造を狙い、自分たちだけで作ることを諦めたのか?」。

 この先、AppleやGoogleのロゴを付けた自社開発&製造の自動運転車両は、「市販車」という形では世に出ないかもしれません。

 ただ、自動運転車両そのものを支える技術や、利用者の気付かなかった新たな価値の提供、そしてタイムリーなアップデートを促す手法として、IT/IoT企業が貢献してくれることは間違いないと筆者は考えています。

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